
『ミッシング』(24)、『四月の余白』(25)の吉田恵輔が脚本、監督を務める本作。無邪気な花火遊びでアパートを全焼させたことをきっかけに人生が変わり、過去に囚われたまま大人になった2人の青年と、その火災で大切なもの全てを奪われた男との歪な再会が描かれる。
このたび解禁されたのは、本作のタイトルでもある重要人物“メンター”役で、3時間に及ぶ特殊メイクによる衝撃的なビジュアルでも話題を集めている、綾野演じる埜本にフォーカスした新ビジュアルだ。15年前、花火遊びによるアパートの火事で妻子を失い、自身も大火傷を負い、怪我の後遺症を抱えながら生きてきた埜本。ある日、火事を起こして以来引きこもりがちな日々を送ってきたかつての少年、拓海(末澤)と偶然の再会を果たすことに。恨んで当然の相手なのに、土下座して詫びる拓海を埜本は優しく包み込む。その後も、全力で自己肯定をしてくれる埜本に対して、次第に彼を心の拠り所、すなわちメンターとして崇めていく拓海。一方、共に火事を起こした龍之介(磯村)は、埜本と再会するも、不気味なほど寛容な態度に違和感を覚え、強い警戒心を抱ていく。
本作のタイトルであるメンターとは、一般的に仕事や⼈⽣において、⼿本となり助⾔や指導をしてくれるよき指導者や信頼できる相談相⼿を指す。今年50歳をむかえる監督の吉田にも「自分も誰かのメンターになるべき年齢になってきている」という思いがあったという。だがそこは“人間描写の鬼”、やはり一筋縄ではいかない。本作の脚本を自ら書き下ろした吉田が着目したのは「メンターについて調べていくうちに、結局は他人を導くことで自分が気持ちよくなっていないか、自分に酔いたいという承認欲求がそこには発生するんじゃないかと。胡散臭さを感じると同時に、そこをおもしろがる自分も出てきて。逆にメンター的な発言をしている人の恥部を見たい気持ちも湧いてきた」と語っている。

そんな人間の裏を暴くかのように、このたび解禁されたビジュアルでは雨粒が滴るガラス越しにたたずみ、どこか一点を見つめる埜本の姿が。愛情とも恨みともつかぬ感情がよぎる刹那が切り取られている。そこにあるのは、龍之介や拓海に見せる優しすぎる顔ではない。その眼差しは赦すことへの葛藤や、奪われた家族ともう戻らない日常への静かな復讐心を秘めているかのようだ。さらに、埜本のトレードマークである中日ドラゴンズキャップの色とも重なる青い光が不穏さと悲しみをより一層際立たせる。
この得体の知れない埜本というキャラクターを作り上げるにあたり、顔の火傷痕はキャップを被った状態でも左耳の上から首元まで及び、綾野の顔を粘土で型取りしシリコンに落とし込んで作ったものを、5つのパーツに分けて貼り合わせ、特殊メイクによって生々しく再現されている。加えて長袖の先から見える両手にも特殊メイクを施し、その姿で生きてきた埜本の15年を物語る。また、キャップの裾から白髪混じりのもじゃもじゃが覗く特徴的な髪型は、綾野本人の発案で生まれたという。綾野は「特殊メイク、ヘアメイク、演出部の各部署と共に徹底的に追求した結果、すばらしい造形が完成した」と振り返り、「彼の知られざる15年の軌跡を想像してもらえると思います」と自信をのぞかせる。
外見の作り込みにとどまらず綾野は、「撮影中は、彼をどう救い、どう生きられるかだけを考えていました」と振り返る。埜本という役への愛着について問われると「彼に出会えてよかったです。彼の気持ちをたくさん想像できましたし、彼に対する私自身の答えも見えました」と役と向き合った日々を思い返し、「私にとって彼との時間は幸せでした。埜本さんに感謝しています」と語っている。
話題作への出演が続く綾野が並々ならぬ情熱と愛を役に注いだ『mentor』。特殊メイクを経て生みだされた埜本の姿をスクリーンで確認してほしい。
文/サンクレイオ翼
※吉田恵輔の「吉」は「つちよし」が正式表記
