
今、イタリアのアドリア海で、外来種のカニによる深刻な漁業被害が広がっています。
問題となっているのは、北米原産の「ブルークラブ」です。
強力なハサミで貝をこじ開け、アサリなどを次々と食べてしまうため、イタリア北東部では大きな損失が出ています。
そこで研究者たちが対抗策として目をつけたのが、なんと「タコ」でした。
甲殻類を好んで捕食するタコを海に増やし、ブルークラブの勢力拡大を食い止めようというのです。
この一風変わった試みは、イタリアのボローニャ大学(University of Bologna)が進める「Octo-Blu」プロジェクトとして始動されています。
目次
- 貝を食い荒らす外来カニに「天敵」をぶつける
- 8万匹の小さなタコを海へ放流
貝を食い荒らす外来カニに「天敵」をぶつける
ブルークラブは北米の大西洋沿岸を原産とする甲殻類です。
数十年前、船舶のバラスト水などを通じて地中海へ持ち込まれた可能性が高いと考えられています。

近年になって個体数が急増し、特に被害を受けているのがアドリア海沿岸の貝類養殖です。
ブルークラブは青みを帯びた頑丈なハサミを持ち、若いアサリを含め、海底のさまざまな生物を食べます。
ヨーロッパ有数のアサリ生産地を抱えるエミリア=ロマーニャ州では、2022年以降の被害額が約1700万ユーロに達したとされています。
農業・漁業団体コルディレッティは、イタリア全体の被害額を約2億ユーロと推定しています。
しかもブルークラブは泳ぎが得意で、大きな個体は1キログラムほどに成長します。
さらに現地では天敵が少ないうえ、非常に高い繁殖力を持っています。
そこでボローニャ大学の研究チームが考えたのが、マダコを増やす方法でした。
タコは自然界でカニなどの甲殻類を積極的に捕食する強力な捕食者です。
研究者たちは、この食性を利用すれば、ブルークラブの増加にある程度ブレーキをかけられるのではないかと考えました。
8万匹の小さなタコを海へ放流
「Octo-Blu」プロジェクトでは、港町チェゼナーティコの研究施設でマダコの幼生を育てています。
十分に成長した小さなタコは数千匹ずつ海へ運ばれ、海中の岩礁付近に放流されます。
さらに研究チームは、タコが定着しやすくなるように、セメントと粘土で作った人工的な巣穴も海底に設置しました。
6月以降、すでに約8万匹が放流されており、チームは8月末までにその数を倍増させる計画です。
狙いは、沿岸部に小規模なタコの集団を定着させ、ブルークラブを継続的に捕食させることです。
こちらで、ブルークラブを仕留めるタコの様子がご覧いただけます。
※ 視聴の際は、音量にご注意ください。
ただし、タコを放てば問題が一気に解決するわけではありません。
ブルークラブの被害が特に激しいのは、暖かく砂地の多いラグーン地帯ですが、マダコはこうした環境をあまり好みません。
そのため、最も被害の大きな場所ではタコによる効果が限定的になる可能性があります。
そこでチームはタコだけでなく、ブルークラブを食べる可能性のあるスズキや、甲殻類の卵を好んで食べるウナギにも注目しています。
複数の捕食者を組み合わせることで、ブルークラブの増殖を抑える方法を探っているのです。
ブルークラブは1匹のメスが数百万個もの卵を産むほど高い繁殖力を持っています。
すべてが成体になるわけではありませんが、それでも研究者は、タコが産卵前のメスを1匹捕食するだけでも、その後に生まれる膨大な数の個体を減らせる可能性があると考えています。
外来種に対し、人間が直接駆除するのではなく、その捕食者を利用して勢力を抑える今回の試み。
もちろん、生態系に別の影響を与えないかを慎重に見極める必要があります。
それでも、タコがブルークラブの増殖をどこまで抑えられるのかが確認されれば、アドリア海沿岸の漁業と海洋環境を守る新たな選択肢になるかもしれません。
参考文献
Italian scientists bet on octopus to fight crab invasion
https://phys.org/news/2026-08-italian-scientists-octopus-crab-invasion.html
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

