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日仏共同製作『私はあなたを知らない、』で新境地!中野量太監督が描く“家族”の物語はなぜ世界を魅了するのか?

日仏共同製作『私はあなたを知らない、』で新境地!中野量太監督が描く“家族”の物語はなぜ世界を魅了するのか?

坂口健太郎が主演を務める映画『私はあなたを知らない、』が8月28日(金)公開となる。本作は、『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)の中野量太監督が10年ぶりの完全オリジナル脚本でメガホンをとり、「人を愛すること、赦すこと」をテーマに描くヒューマンサスペンス。“母を殺した男”と“被害者の娘”という、本来交わるはずのない2人の運命を、ユーモアと愛情に満ちたサスペンス形式で映しだしていく。

MOVIE WALKER PRESSでは今回、中野量太監督に加え、本作の共同製作を務めたフランスの映画製作会社「ピラミデ・プロダクションズ」取締役のフレデリック・ボーテ、そして、前東京国際映画祭のディレクターや映画プロデューサーを務め、フランス映画祭の運営にも携わる矢田部吉彦を迎えた鼎談を実施!

これまで独自の視点で“家族”を撮り続けてきた中野監督の手掛ける作品が世界中の観客の心を打つ理由から、日仏共同製作を果たした本作の魅力、さらには、『急に具合が悪くなる』(上映中)といった国際共同製作の日本映画が近年増えている背景やその意義について語り合ってもらった。

中野量太監督が明かす、日本とフランスで解釈が正反対だった『私はあなたを知らない、』のシーンは?
中野量太監督が明かす、日本とフランスで解釈が正反対だった『私はあなたを知らない、』のシーンは? / 撮影/Jumpei Yamada(ブライトイデア)

天涯孤独の身である西山夕平(坂口)は、自分のなかで決めたルーティンを守って生活を送り、その環境を寂しいとも感じずに生きてきた。しかし、職場にやってきた新しい職員でシングルマザーの紗月(堀田真由)と出会い、夕平の毎日は輝いていく。5歳の娘・朝子と紗月、3人の生活からこれまで知らなかった生きる喜びや“家族”という幸せの形を知った夕平は心を解放していくが、ある日事件が起きる…。

■「中野監督ならではの感性、描写のセンスにとても感動しました」(ボーテ)
天涯孤独の夕平は、紗月と朝子に出会い“家族”という幸せを知っていく
天涯孤独の夕平は、紗月と朝子に出会い“家族”という幸せを知っていく / [c]IDKYPs./Pyramide Productions


——今回の日仏共同製作は、どのように始まったのでしょうか。

フレデリック・ボーテ(以下、ボーテ)「きっかけは、私たちが製作したフランス映画『フューチャー・ウォーズ』を、本作も手掛けるクロックワークスが日本で配給したことです。来日した際にクロックワークスのスタッフと会い、フランス映画や日本映画についてたくさん話をしました。そのなかで一緒に作品をつくれないか、という話になったんです。私たちは日本映画の大ファンで、なかでも中野監督の作品が好きでした。実は『浅田家!』でも一緒に仕事をする可能性があり、それ以来ずっと中野監督の仕事を注視していたんです。だからクロックワークスには、『新しい企画があったらぜひ教えてください』と伝えていました」

中野量太(以下、中野)「『浅田家!』の時に一度、一緒にやろうかという話があったんです。ただ、その時はうまくいかなかった。今回またフランスと合作したいとなったので声を掛けて、実現することができました」

——『私はあなたを知らない、』の脚本のどこに共同製作へ踏みだす決め手を感じましたか。

ボーテ「第一にストーリーがとてもよかった。中野監督は幸福と悲しみを同時に描く才能がある。その世界観にとても惹かれました。そして『私はあなたを知らない、』には、少しフランス映画を連想させるところもあります。ヌーヴェルバーグの監督たち、例えばゴダールやトリュフォーを感じる部分がある。フランス人ではないですが、ヒッチコックも思い浮かびました。完成作を初めて観た時には『めまい』を少し連想したんです。中野監督は、ドラマからコメディを生みだす“鍵”を持っている。それをどうやっているのか私にはわかりませんが」

中野量太監督が、10年ぶりの完全オリジナル脚本で挑んだ映画『私はあなたを知らない、』
中野量太監督が、10年ぶりの完全オリジナル脚本で挑んだ映画『私はあなたを知らない、』 / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——ボーテさんが本作にどのように関わったのか、また、それによって作品がどのように変わったのかを教えてください。

ボーテ「中野監督とミーティングをした際に脚本についてアドバイスがあるか聞かれたのですが、『彼のような天才に私が一体なにを言える?』と思ったのでなにも言いませんでした。ただ最初の脚本だと、とある理由で朝子から距離を置くことになった夕平が、外国を訪れていた様に装うシーンでは、インドに行ったふりをするという設定だったので、なぜインドなのかと尋ねたんです。すると中野監督は『インドを知っているからだけど、特に強い理由があるわけではない』と答えた。それで『ならフランスはどうですか?私はフランス人ですし』と提案したんです(笑)。それから、中野監督に頼まれてタクシーに乗っているフランス人観光客の役として出演もしました。とてもいい経験でしたね」

中野「それ以外にも、フランスチームから『殺人の描写はもう少しぼかしたほうがいいのではないか』という意見をもらったんです。それを受けて、そこは直しました。編集の段階でもいくつか意見をもらって、参考にしたところがあります」

——実際に完成した作品をご覧になって、どのように感じましたか。

ボーテ「ただただ素晴らしいと感じました。脚本の時点でクオリティが高く、そこから大きく印象が変わったことはありませんが、改めて中野監督ならではの感性、描写のセンスにとても感動しました」

矢田部吉彦(以下、矢田部)「中野監督はこれまで、家族の物語を様々な形で描いてきた作家です。『浅田家!』では震災が扱われましたが、今回は殺人という事件を軸に『家族はいかにあり得るか』という視点からまた新たな物語を紡いでいる。そのことにとても感銘を受けました」

保育園の送り迎えなど朝子の面倒を積極的に見るようになり、家族の温もりを感じていく夕平
保育園の送り迎えなど朝子の面倒を積極的に見るようになり、家族の温もりを感じていく夕平 / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

■「中野監督は、人の感情をダイレクトに揺さぶる脚本を書くことができる」(矢田部)

【写真を見る】坂口健太郎がむき出しのフランスパンを背負って保育園へ!?
【写真を見る】坂口健太郎がむき出しのフランスパンを背負って保育園へ!? / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——日本とフランスでは見え方がかなり違うシーンもあったそうですね。

中野「そうですね。例えば運動会で夕平が朝子のために声を上げるシーンは、日本人なら夕平の行動を『恥ずかしいな』と受け止めることが多い場面ですが、フランス人の多くは、『よくやった!』『いいお父さんだ』と受け止めるそうなんです。まったく逆であることに驚きましたね。だから紗月がこういったことを理由に、夕平に別れを告げることがあまり理解できないという意見もありました。『別れを選ぶのは、紗月が夕平に娘を取られると思ったからでしょ』という捉え方をされたり。ただ僕自身はフランス側の価値観に寄せて作っているわけではないので、その場面を変えようとは思いませんでした」

ボーテ「多くのフランス人やほかの国の人がその場面を違った解釈で受け取ることは理解できます。ただ、我々ピラミデ・プロダクションズとしては、日本の文化や価値観を尊重することを大切にしていました。なにより、私たちは中野監督の選択を信頼しているので」

——同じシーンでも価値観や文化的背景によって捉え方が異なるというのは興味深いですね。中野監督は今回、国際共同製作ということもあり、制作の段階から海外の観客を意識していたのでしょうか。

中野「めちゃめちゃ意識しました。根本のところでは、最初から“外に開いて作る”という想いがありました。国が違っても人間の在り方や考え方には絶対に共通点があると思っていて、この作品もストーリー自体はユニバーサルなものだと思っています。ただ細かい文化の違いに合わせて寄せることはしないだけで」

■「『浅田家!』は、フランスの人たちから『Beautiful』と言われました」(中野)

——『浅田家!』はフランスでも25万人を超える観客を動員する大ヒットを記録しました。中野監督の作品がフランスの観客にもこれほど支持されるのはなぜだと思いますか。

ボーテ「まず、テーマが普遍的であること。そして、ドラマでありながらコメディでもある。そのバランスや描き方がとても巧いことが大きいと思います。おっしゃる通り、『浅田家!』はフランスでも大成功しました。私が中野監督と初めて会ったのは、クロックワークスのオフィスへ向かうエレベーターの中だったのですが、その時に『私はフランスで一番の「浅田家!」ファンです』と伝えたんです(笑)。『湯を沸かすほどの熱い愛』も大好きです。あの映画には、心を強く動かされるなにかがある。フランス語でもうまく説明できないほど、特別なものです」

——中野監督はデビュー作から一貫して“家族”というテーマを描き続けていますが、家族観というのは国によっても大きく異なるのではないかと思います。その点はフランスでどのように受け止められているのでしょうか。

ボーテ「私は中野監督の家族の描き方を『日本独自の家族観』だとは思っていません。もちろん細かい部分では違いがあります。例えば本作でも日本とフランスでは別れの捉え方が少し違うかもしれない。それでも、物語の根本にあるものはユニバーサルであると考えます」

オーディションで朝子役を掴み取った早瀬憩
オーディションで朝子役を掴み取った早瀬憩 / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——中野監督ご自身は、フランスでの反響をどのように感じましたか。

中野「『浅田家!』はフランスの人たちからすごく反響がありましたね。おもしろかったのは、『Beautiful』という言葉を本当によく言われたこと。それは映像が美しいという意味ではなく、人の心についてなんです。映画の中で、主人公は知らない誰かのために泥だらけの写真を洗います。日本人からは、そういう場面に対して『美しい』という感想をあまりもらったことがなかった。けれどフランスでは口々に言われたんです。ユーモアも含め、いろんなものが刺さったのだとは思いますが、一番は“誰かのために”という行為の美しさなのかなと感じました」

矢田部「先ほどフレデリックさんが“ユニバーサル”とおっしゃったのは、状況が違っても、人間の感情そのものは世界共通だからだと思います。中野監督は、人の感情をダイレクトに揺さぶる脚本を書くことができる。本作だと『自分の母親を殺した男を赦せるのか、その人を父親だと思えるのか』という、信じられないようなところから出発して、最後には大きな感情へとたどり着く。そこは日本でもフランスでも、世界中で共有できるものだと思います」

母親が殺された事件の真相を知るため、朝子は当時の弁護士(滝藤賢一)に話を聞きに行く
母親が殺された事件の真相を知るため、朝子は当時の弁護士(滝藤賢一)に話を聞きに行く / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

■「フランスは映画をアートとして捉える一方で、ビジネス面もないがしろにしない国」(矢田部)

温もりへの執着の果てに罪を犯してしまう夕平を、坂口健太郎が確かな存在感で体現
温もりへの執着の果てに罪を犯してしまう夕平を、坂口健太郎が確かな存在感で体現 / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——近年、『急に具合が悪くなる』や『化け猫あんずちゃん』(24)、『SUPER HAPPY FOREVER』(24)など、日仏共同製作の作品が増えているように感じます。今回の経験を経て、フランスとの共同製作には、作品を作るうえでどのような意味があると感じましたか。

中野「具体的に言えば、やはり予算ですね。『私はあなたを知らない、』の規模の企画を成立させられるということはすごく大きい。いまはとりわけ、中規模の映画は本当に苦しい状況にあります。日本だけで成立させようとすると制作費が小さくなり、結果的に作り手が苦しくなっていく。特に今回は原作のないオリジナル作品です。それだと日本ではさらに資金が集まりにくい。少しでも海外の資金を入れていかないと、本当に厳しくなると感じています。そして予算だけではなく、『外に目を向けて作品を作らなければいけない』という気持ちも大きくなる。最初から海外へ届けるつもりで作る。その意識を持っておかないとダメだと思っています」

ボーテ「予算はアートではなく、ただのお金です。私たちが作っている映画はアートであり、私はお金そのものには興味がありません。いいものを作りたい。できれば傑作を作りたい。それだけです」

中野「僕がめちゃめちゃお金を気にしているという話をした直後に(笑)。そういえばフレデリックは本作に無償で出演してくれましたね」

矢田部「フランスは映画をアートとして捉える一方で、ビジネス面もないがしろにしない国です。そのように映画を大切にしている国が日本映画の製作段階から関わってくれることには、文化的・産業的にとても大きな意味があると思います。フランスでは日本文化はアニメーションやコミックを通して広く浸透していますし、小津安二郎、成瀬巳喜男、黒澤明といった映画監督たちも非常に尊敬されている。日本映画は、小津に代表されるように家族の物語を語ることに優れていると捉えられていて、その伝統の上に中野監督の作品も位置づけられるのではないかと思います。そのように、日本文化や日本映画を愛してくれる土壌がもともとあった。それが現在増えつつある共同製作の動きにもつながっているのではないかと考えます」

「ピラミデ・プロダクションズ」との共同製作で、海外へも目を向けたより広がりのある作品に
「ピラミデ・プロダクションズ」との共同製作で、海外へも目を向けたより広がりのある作品に / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——フランスには映画製作を公的に支援する仕組みがありますが、日本映画との共同製作でもそうした制度を活用できるのでしょうか。

ボーテ「できますが、ジャングルのように複雑です。フランスには国際共同製作を支援する仕組みがいくつもあって、例えば今回はCNC(フランス国立映画映像センター)の国際共同製作支援制度『シネマ・ドゥ・モンド』に申請しました」

中野「審査があって最後の数本までは残ったんですけど、落とされました。世界中から応募が来るので本当に狭き門なんです。加えて言えば、仮に助成を受けることができた場合、作品の仕上げ作業をフランス国内で行うなど、現地で一定の費用を使う必要が出てきます。フランスでの制作費は日本より掛かってしまうので、経済的には必ずしも得になるわけではない。ですが、こうした公的支援の選択肢があることで、チャンスが広がるのは確かです」

矢田部「そもそも、そうした国際共同製作の助成金に応募するためには、フランス側のプロデューサーが必要なんですよね。だから、すでにフレデリックさんやピラミデ・プロダクションズと関係を築けていること自体が大きな第一歩なんです。そこにたどり着けない企画がいかに多いか。まずフランス側のパートナーと関係を作ることが重要で、申請に通るかどうかはその次の話だと思います」

■「国際共同製作の支援を活用したオリジナル企画の日本映画がもっと増えてほしい」(中野)
“家族”をテーマに作品を撮り続ける中野監督が挑む、渾身のヒューマンサスペンス
“家族”をテーマに作品を撮り続ける中野監督が挑む、渾身のヒューマンサスペンス / [c]IDKYPs./Pyramide Productions


——今後の日本映画の国際展開をどう考えていますか。

中野「これからの日本映画は、もっと国際共同製作の方向へ進んでいかないと厳しいと思います。共同製作をどんどん増やしていくべきですし、それに伴って映画祭の重要性も高まっていく。ただ、海外の製作会社と一緒に作るとしても、僕はあくまで日本の映画を作りたいんです。その一方で、いつか海外を舞台にした作品にも挑戦してみたい。本作も僕にとっては新しい挑戦でしたし、ゆっくりではありますが、一歩ずつ前に進めている感覚はあります。目指す方向はおおよそ見えているんですが、そこへたどり着くのは簡単ではない。それでも、日本映画がダメになっていくのは嫌なんです。だから『これからはこうしていかなきゃいけない』という方向をきちんと見据えながら、進んでいきたいですね」

矢田部「中野監督が話したように、日本ではオリジナル企画を成立させることがなかなか難しい。だからこそ、国際共同製作によって自分たちの映画の可能性を広げようという考えは、若いプロデューサーたちにもかなり浸透し始めています。国際プロデューサーの育成コースのようなものが開催されると、ものすごい数の応募が来るようになった。みんなそちらに目を向け始めているんですよね。映画祭への出品はどうしても大きな話題になりがちですが、それは国際的な評価や認知度を示すひとつの指標にすぎません。中野監督は、映画祭とはまた違うところで、フランスで大きな興行的成功を収めている。興行で結果を出すことは誰にでもできることではありませんし、ある意味では映画祭に出品される以上に難しいことです。中野監督がそういう独自の道を切り拓いていることが、『国際展開にもいろいろな可能性がある』といういい刺激を日本のプロデューサーたちに与えている。同時に、『本当にいい脚本を書かなければダメだ』というプレッシャーも、多くの監督たちに与えているのではないでしょうか」

『私はあなたを知らない、』は8月28日(金)公開
『私はあなたを知らない、』は8月28日(金)公開 / [c]IDKYPs./Pyramide Productions

——最後に、これから本作をご覧になる方へメッセージをお願いします。

ボーテ「ぜひ観てください!中野監督の作品は、エンディングがとにかくすばらしい。『浅田家!』も、『湯を沸かすほどの熱い愛』も、そして『私はあなたを知らない、』も、とても美しい終わり方をします。フランスのプロデューサーとして、この作品に参加できたことをとても誇りに思っています。そして、日本映画との次のコラボレーションも楽しみにしています」

矢田部「『私はあなたを知らない、』のタイトルの意味を、映画を観終わったあとにぜひ噛みしめてほしいですね。最後の最後に大きな感動が待っていますし、観終わったあとにも長く余韻が残る。その余韻を楽しんでもらいたいです」

中野「僕にとっては新しい挑戦となった作品ですが、根っこの部分はこれまでとそこまで変わっていません。観た人にいろいろなことを感じてもらえる映画になったんじゃないかなと思います。そしてなにより、今回こうして国際共同製作という形で、オリジナル作品を作ることができた。僕はこういう日本映画がもっと増えてほしいんです。もちろん、この1本に日本映画の未来がかかっているなんて言うつもりはありません。でも、この作品がひとつの成功例になって、次の作品につながっていってほしい。そのためにも、まずはたくさんのお客さんに観てもらいたいです。切実に、この映画が成功してほしいと思っています」

取材・文/ISO
配信元: MOVIE WALKER PRESS

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