第108回全国高校野球選手権大会決勝は、智弁和歌山が健大高崎を4-3で破った。わずか1点差。ただ、試合を振り返れば、その数字以上に智弁和歌山の勝負強さが際立った決勝だった。
健大高崎も、あと一歩のところまで智弁を追い詰めた。8回表に3-2と逆転した時点では、むしろ勝ち筋に入ったと球場全体も思ったに違いない。
先発の石垣元気は2回、川原一将の二塁打から山下晃平に適時三塁打を浴びて先制を許す。さらに2死三塁、長友悠成の打席では石田翔大が三塁へのファウルフライを落球。その直後、長友に右翼への適時二塁打を許し、2点目を失った。
それでも、ここから石垣が踏ん張った。
3回には山田凜虎、楠本龍生の連打で1死一、二塁とされたが無失点。2回にはストレートを捉えられたものの、その後はカットボールやツーシームを織り交ぜ、智弁打線に的を絞らせなかった。
6回からは北田一颯へ。6回を三者凡退、7回も先頭の長友に安打を許しながら井本陽太を併殺に仕留めた。2回に2点を失ってから5イニング連続無失点。タイプの違う投手をつなぎ、変化球を中心にかわしていく。大会を通して見せてきた健大高崎らしい投手運用で、2-1のまま終盤まで持ち込んだ。
健大高崎に傾いたはずの8回
そして8回表、健大高崎がひっくり返す。
先頭打者の安打から、神崎翔斗の二ゴロで1死二塁。石田雄星が右翼席へ逆転2ランを叩き込み、3-2。2回以降、追加点を奪えていなかった智弁を終盤でついに捕まえた。
この一発で流れは健大高崎へ――。そう思わせるには十分な逆転劇だった。
しかし、その流れを智弁はわずか半イニングで引き戻した。
8回裏、先頭の4番・山田が死球で出塁すると、楠本がセンター前へ運んで無死一、二塁。代打・松本虎太郎が送りバントを決め、1死二、三塁。ここで智弁ベンチがスクイズを選択した。
川原が初球で仕掛けるも失敗。それでもカウント1-1から再びスクイズを敢行する。今度はきっちり転がし、北田のフィルダースチョイスもあって同点。逆転された直後の8回裏、一度失敗したスクイズをもう一度仕掛けたベンチの判断と、それを決めた川原。決勝の勝負どころで、智弁の思い切りの良さ、引き出しの多さが出た場面だった。
健大高崎はここで三塁を守っていた石田翔をマウンドへ送る。山下を追い込んで空振り三振を奪ったものの、その投球が暴投となり三塁走者が生還。智弁が4-3と勝ち越した。
健大高崎が逆転したのが8回表。その裏には、もうスコアがひっくり返っていた。
ミスを見逃してくれない甲子園
甲子園はミスを見逃してくれない。特に力が拮抗した試合になれば、ほんのわずかな綻びがそのままスコアに刻まれる。
この日の健大高崎がそうだった。2回のファウルフライ落球は直後の適時打につながり、8回にはスクイズへの対応で同点。さらに暴投で決勝点を失った。
だからといって、健大高崎の自滅で片付けてしまえば、この決勝の本質を見誤る。
智弁が強かったのは、その隙をことごとく得点に結びつけたことだろう。
決勝では石垣、北田を簡単には打ち崩せなかった。それでも逆転された8回裏、死球から安打、送りバントとつなぎ、最後はスクイズで1点をもぎ取った。長打が出なければ、それ以外の手段で試合を動かす。初戦からタイプの違う好投手と対峙してきた経験も、こうした土壇場での対応につながったのではないか。
健大高崎は強力な智弁打線を終盤まで2点に抑え、8回には逆転した。決して力負けしたわけではない。むしろ、優勝まであと一歩というところまで試合を運んでいた。
それでも、最後の最後でわずかな隙を得点に変えたのは智弁だった。
4-3というスコアだけなら1点差。しかし、その1点をどう奪ったのかまで振り返ると、数字以上に智弁和歌山の勝負強さが浮かび上がってくる。
ミスを見逃さず、打てなければ別の方法を探し、逆転されてもすぐに取り返す。決勝の土壇場でそれをやり切ったところに、智弁和歌山が頂点までたどり着いた理由が詰まっていた。
高校野球ウォッチャー・浜風夏人

