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天才・宮崎駿のミス?演出?『トトロ』メイvsヤギのシーンにある「大ウソ」とは

天才・宮崎駿のミス?演出?『トトロ』メイvsヤギのシーンにある「大ウソ」とは


『となりのトトロ』静止画より。この後、ヤギにトウモロコシを狙われる (C)1988 Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

【画像】え、めっちゃ違うじゃん コチラが『トトロ』のヤギと実際のヤギの口の中の比較です

「絵コンテ」には「自分の目で見よう!」とあるが……

 映画『となりのトトロ』(原作・脚本・監督:宮崎駿)の自然描写は、圧倒的でした。その上で、ファンの間で今も「演出」か「ミス」かの議論が分かれているシーンがあります。

 それは後半部分、「メイ」が民家で飼育されている「ヤギ」のシーンです。このシーンの詳細に入る前に、まず『トトロ』と言う作品を貫くリアリティー志向に触れておきます。

「サツキ」やメイが暮らす家の周辺の草花の描き込み、天候や時間によっても大きく変化する田園風景、大きな楠のゴツゴツとした質感、雨、水たまり、反射する白い雲……原風景とも言うべき自然の姿が、画面いっぱいに描き込まれていました。

『トトロ』のこうした背景美術の多くを担ったのが、美術監督の男鹿和雄さんです。以降も『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などのジブリ映画において、その微細で美しい自然描写の手腕を発揮し続けてきたプロフェッショナルでした。

 宮崎監督、男鹿さんは、雑草の種類、土の色、陽光の角度の変化、こうしたことを緻密に話し合い、ひとつひとつ画面に落とし込んでいます。

 この姿勢は公式の「絵コンテ」でも確認可能です。カタツムリが葉っぱを這う場面では、その横に「植物を特定してかくこと!!」という宮崎監督の指示書きがあります。

 名もなき雑草一本ですら、スケジュールが許す限り、記号ではなく実際の植物として描こうというのが『トトロ』の精神なのでした。

 改めて本題に入りましょう。メイがヤギに出会うシーンは、彼女がお母さんに持っていこうとしているトウモロコシをヤギに食べられそうになり全力で拒絶する、という健気で印象的な場面です。

 この時、ヤギの顔がクローズアップされ、前歯を剥き出しにして物欲しそうに「メェー」と鳴きます。このシーンこそ、嘘か演出かファンの間で議論が分かれているのです。

 というのも、実はヤギには上の前歯がありません。上の歯の代わりに硬い歯肉があります。しかし『トトロ』のヤギは、本来ないはずの上の前歯が、これでもかと言うほど強調して描き込まれていました。

 普通のアニメであれば、「作画ミス」として片付けられてしまうことでしょう。しかし、上述の通り『トトロ』は自然描写のリアリティーを追求している作品でもあります。

 もちろん『トトロ』はファンタジー作品なので、大なり小なり「嘘」は描かれていました。たとえば、サツキとメイとトトロたちが真夜中に踊りながら樹木を育てるシーンは、演出重視です。樹木が伸びるにつれて、本来であれば大量の落葉が発生しますが、それらは省略しています。

 とはいえ、この「ヤギのシーン」はファンタジーシーンではありません。幼児の切実な行動が描かれていました。ここでも「絵コンテ」が、役に立ちます。

 該当シーンの絵コンテも、ヤギは上の前歯がある状態です。しかし、その横にはこんなメモ書きがありました。

「スローガン 自分で出かけ、自分の目で見よう!!」「山羊は井の頭公園の御殿山公園にいるはずです」

 ここから推測できるのは、宮崎監督は絵コンテを描いた際に、ヤギの歯がどうなっているかは判然としない状態だったのではないか、ということです。

 それゆえに作画スタッフに対し、「ちゃんと本物を確認しましょう」という指示をわざわざ「場所」まで記して書き添えていたのかもしれません。なお「井の頭公園の御殿山公園」とは、現在の「井の頭自然文化園」のことでしょう。今も、ヤギは飼育されています。

 この指示があった上で、なおヤギの上前歯が修正されなかったのはなぜでしょうか。制作現場のスケジュールからして、時間がなかったのではないか、という見方ももちろん可能です。

 あるいは作画スタッフがちゃんと実物を見た上で、「こっちの方が良い」と上前歯を残して描いた、と考えることもできます。実際、メイの心象風景からすれば、ヤギは相当貪欲に見えていたことでしょう。それを現す演出だった可能性も大いにあり得ます。

 このように、どこまでも「ミス」では片付けられない、片付けて欲しくない心理すら働いてしまうのが、ジブリ作品の真髄なのかもしれません。

参考書籍:『絵コンテ となりのトトロ』(徳間書店)、『ジブリの教科書3 となりのトトロ』(文藝春秋)

配信元: マグミクス

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