
痛いものは、できれば早く遠ざけたいものです。
しかし同じ痛みを感じていても、人によって「どこまで耐えられるか」にはかなり違いがあります。
では、その耐える力は、普段聴いている音楽や、ライブで味わう強烈な音楽体験によって変化することがあるのでしょうか。
ドイツのマックス・プランク人間認知・脳科学研究所(MPI for Human Cognitive and Brain Sciences)は、世界最大級のヘヴィメタルフェス「Wacken Open Air」を訪れ、メタルファンの痛みへの反応を調査。
その結果、メタルファンは物理的な「痛みへの耐性」が強くなる傾向があると判明したのです。
研究の詳細は2026年8月20日付で学術誌『Scientific Reports』に掲載されています。
目次
- メタルフェス参加者は「氷水の痛み」にどれほど耐えられる?
- 痛みが弱くなったのではなく「痛いまま長く耐えた」
メタルフェス参加者は「氷水の痛み」にどれほど耐えられる?
ヘヴィメタルでは、怒りや苦痛、不安といったネガティブな感情が強く表現されることがあります。
一方、慢性的な痛みの研究では、怒りを抑え込むことが痛みを強める可能性が指摘されてきました。
そこで研究チームは、怒りを強く表現する音楽をライブで何日も体験すると、痛みへの反応が変わるのではないかと考えました。
研究が行われたのは、毎年約8万人ものメタルファンが集まるドイツのWacken Open Airです。
実験には122人のメタルファンが参加しました。
うち60人はライブが始まる前日に測定された「フェス前群」、62人はライブ開始から3~4日後に測定された「フェス中群」です。
同じ人を前後で調べたわけではなく、どちらもフェスに来ていた別々のメタルファンを比較しています。
参加者はまず心拍数などを測定された後、約2℃の氷水に手と前腕を入れ、最大4分までどれほど耐えられるかを試しました。
研究者はここで、「痛みを感じ始めるまでの時間」と「痛みを感じてから手を抜くまでの時間」、さらに「どれほど不快だったか」を分けて評価しました。
つまり、単純に「痛いか、痛くないか」を調べたわけではありません。
痛みが弱くなったのではなく「痛いまま長く耐えた」
122人全体を比較した最初の解析では、フェス前群とフェス中群の間に明確な差は確認されませんでした。
ただしフェス会場ではアルコールを飲む参加者も多く、アルコール自体が痛みへの耐性を変える可能性があります。
そこで研究者が大量飲酒者を除いた97人について追加の探索的解析を行ったところ、興味深い違いが現れました。
フェス中群では、フェス前群よりも氷水による痛みに長く耐えていたのです。
一方で、痛みを感じ始めるまでの時間には差がなく、痛みをどれほど不快だと感じたかにも違いはありませんでした。
つまりフェスを数日間体験した人たちは、痛みそのものに鈍感になったわけではありません。
同じように「痛い」「不快だ」と感じながら、それでも手を氷水の中に長く残していたのです。
研究者たちは、これを痛みに対する「レジリエンス」が高まった可能性として解釈しています。
ヘヴィメタルは不快な感情を心地よい感情で覆い隠すというより、怒りや苦痛そのものを音楽として強く表現します。
こうした音楽を大勢の仲間と共有する体験が、不快な感覚を消すのではなく、「不快なまま受け入れて耐える」ことにつながった可能性があるというのです。
ただし今回、心理的なレジリエンスそのものを直接測定したわけではなく、オキシトシンやエンドルフィンなどの生理的な仕組みも測定されていません。
また、痛み耐性の差は全参加者を対象とした主要解析ではなく、大量飲酒者を除いた追加解析で確認されたものです。
そのため、ヘヴィメタルを聴けば誰でも痛みに強くなると結論づけることはできません。
それでも今回の結果は、音楽による痛みへの対処が、必ずしも「リラックスする」「気分を良くする」ことだけではない可能性を示しています。
怒りや苦痛を表現する激しい音楽に身を任せることもまた、痛みと付き合うための意外な方法になるのかもしれません。
参考文献
Heavy metal fans may handle pain better than others
https://www.popsci.com/health/metal-fans-pain-tolerance/
Metalheads Can Endure Pain Longer Thanks to the Festival Experience
https://www.cbs.mpg.de/2510200/2026-08-24
元論文
Increased pain resilience among heavy metal music festival attendees
https://doi.org/10.1038/s41598-026-67389-x
ライター
千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。
編集者
ナゾロジー 編集部

