花の女王と称され、世界中で愛されているバラ。数多くの魅力的な品種には、それぞれ誕生秘話や語り継がれてきた逸話、神話など、多くの物語があります。数々の文献に触れてきたローズアドバイザーの田中敏夫さんが、バラの魅力を深掘りするこの連載で今回解説するのは、前回に引き続き、清純な魅力をたたえた白バラの銘花たち。今回は、エレガントな大輪の白花を咲かせ庭に美しい景色を作るクライマー(つるバラ)の品種をご紹介します。

白花のクライマー


Matthewshutter/Shutterstock.com

清楚な美しさを持つ白花のクライマー(つるバラ)。この記事では、大輪花を咲かせ、硬い枝ぶりとなり、枝がよく伸びて3mを超える高さへ達する品種群をクライマーとカテゴライズします。小輪花を咲かせる品種は、次回以降のランブラー編で解説します。

クライマー系の白バラは、バラのクラスとしては、フロリバンダ系やHT(ハイブリッド・ティー)系などが主となっています。また、さまざまなクラスに属する品種を複雑に交配したことなどによりクラス分けが難しくなってしまったものは、ラージフラワード・クライマーに一括されています。そのため、クライマー系の白花はモダンローズに属するものがほとんどです。

ここでは、そんな白花クライマーの中でも定評のある品種をいくつか、市場へ提供された公表された年次に従ってご紹介しましょう。

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つる フラウ・カール・ドルシュキ(Frau Karl Druschki CL)- CL HP、返り咲き、1906年


Photo/田中敏夫

大輪、35弁ほどのダブル、高芯咲きの花となります。初期のHTに似ていることからクライミングHTとされることもありますが、HP(ハイブリッド・パーペチュアル)からの枝変わり種ですので、クライミングHPとするのが適切のように思います。

幅広で大きな、深い色合いのつや消し葉。太く硬めの枝が250~350cmほど伸びる、小さめのクライマー。ぜひ植えたい品種の一つですが、硬い枝ぶりのためアーチやパーゴラには不向きで、壁面などに誘引してオーナメントのような使い方をするのに向いた樹形となります。

1901年、ドイツのペーター・ランベルト(Peter Lambert)は、2m高さほどのブッシュ樹形のものを育種・公表しました。

1906年、イギリスのローレンソン(Lawrenson)が枝変わりにより生じたクライマーを公表。現在流通しているものの多くは、このクライマーのタイプです。

個人的には、小輪で豪華な房咲きとなるランブラーが好みなのですが、大輪で硬い枝ぶりのクライマーの中にあって、この‘つる フラウ・カール・ドルシュキ’は魅力たっぷりだと、常々感じています。

魅力の秘密はどこにあるのだろう、開花すると花弁が少し乱れがちなことか、それとも武骨なほど太くなる幹なのか、あるいは時代を代表する育種家でありながら、フランスのペルネ=ドウシェやルクセンブルグのスペール・エ・ノッタンらが次々に公表する華やかな花色の品種群に感銘し、それに倣おうとしながらも満足できる品種を育種できなかったランベルトへの、ちょっと哀しい同情があるためなのか…複雑な思いにとらわれることが多いです。

公表後、100年以上経過した現代においても、広く栽培されている白バラの名品種です。