
人生の大きな節目である退職。第二の人生を心待ちにする一方で、退職後の生活設計は夫婦にとって重要な課題となります。特に、退職金の使い道や老後の過ごし方については、夫婦間でしっかりと話し合い、互いの希望を尊重することが不可欠です。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、老後を見据えたライフプランについて、CFPの伊藤貴徳氏が解説します。※プライバシー保護の観点から、相談者の個人情報および相談内容を一部変更しています。
退職祝いの夜
Aさん(65歳)の退職祝いは、家族総出で準備されました。Aさんは40年間勤めた大手企業を定年退職し、これからは趣味や家族との時間を楽しみたいと考えていました。妻のBさん(62歳)をはじめ子供たちも集まり、Aさんの長年の努力を労うためのささやかなお祝いが開かれました。
テーブルには、Bさんが朝から手間をかけて準備した豪華な料理が並び、Aさんの好きなビールに鍋料理、子供たちが持ち寄ったワインが彩りを添えていました。Aさんは上機嫌で、これからの老後の計画について熱心に語り出します。
夫の希望と妻の沈黙
「退職金は3,000万円ある。まずは夫婦でヨーロッパ旅行だ。そのあとでゴルフクラブを新調して、庭にパター練習用の芝生を張るんだ!」Aさんは目を輝かせながら語りました。
一方、妻のBさんは控えめな笑顔を浮かべるものの、口を閉ざしていました。Bさんは、Aさんが退職後の生活について「夫婦で旅行に行く」「ゴルフや趣味を楽しむ」と語っていくなかで、自分の意見がまったく反映されていないことに気づきました。Bさんにとって、この計画はAさんの「ひとりよがり」に映っていたのです。Bさんは、自分が専業主婦として家庭を支えてきたあいだ、Aさんの仕事を最優先にしてきました。しかし、これからの老後は自分自身の時間を大切にし、趣味や友人との時間を楽しみたいと考えていたのです。
「私は子犬を飼いたいと思っているんだけど……どうかしら?」
「そんなことしたら旅行に行けなくなるだろう! それにせっかく庭を綺麗にしても、汚されたらたまったもんじゃない」
この発言が決定打となりました。Bさんは席を立ち、「少し外の空気を吸ってくる」と言い残してその場を離れました。家族は最初、Bさんが単にリフレッシュしに行っただけだと思っていましたが、数十分がすぎても戻ることはありません。時間が経つにつれて、家族はBさんの異変に気づき始めます。子供たちが電話をかけても応答がありません。Aさんは「そんなに怒ることか?」と軽い調子で言いましたが、子供たちは母の気持ちを察して不安に駆られました。
後日、Aさんのスマホに1通のLINEメッセージが入りました。そこにはこう書かれていました。
「長年うすうす感じていたことではありますが、あなたが楽しそうに老後の夢を語るのを見て、私の気持ちが無視されていることに気づきました。このままでは、私は私らしく生きることができないと感じたのです」
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退職後のプランにまつわる夫婦間の溝
退職後の生活設計は、夫婦にとって新たなステージの始まりです。しかし、計画の立て方や資金の使い道について意見の相違があると、夫婦間に溝が生じることがあります。自身の退職金とはいえ、自分の趣味や希望だけを優先し、パートナーの意見や希望を軽視することは避けるべきでしょう。
ポイント1:定期的に老後のビジョンを共有する
退職後の生活スタイルや趣味、資金の使い方について夫婦間で話し合いを行うことが必要です。お互いの希望を尊重するための話し合いの場を作ることで、すれ違いや誤解を防ぐことができます。
ポイント2:老後資金の計画を共同で立てる
退職金の使い道を夫婦で一緒に計画することを心がけましょう。家計管理や将来の年金額を専門家に相談することで、正しいプランニングをすることができます。
ポイント3:感謝を共有する
定年退職まで無事に勤め上げることができたのは、家族や身の回りの方全員の努力や支えがあってこその成果です。お互いに感謝の気持ちを持つことで、前向きな計画作りが可能になります。