
介護施設にはネガティブなイメージを抱く人が多いかもしれません。しかし、実際には全く異なります。リハビリテーションを取り入れた施設は、利用者の生活の質を向上させ、元気に自立した生活をサポートする場。本記事では川村隆枝氏の著書『亡くなった人が教えてくれること 残された人は、いかにして生きるべきか』より一部抜粋・再編集し、Mさんの事例を通して、介護施設の本来の目的について解説します。
介護施設は暗くて死を待つ場所ではない
皆様、「介護施設」を利用するというと、どうしてもネガティブなイメージをおもちになる方も多いかと思います。暗い・死を待つばかりの場所……もしかしたらそんなイメージをおもちかもしれませんが、そんなことは全くありません。むしろ、安心して入れる楽園のような場所だと思っています。私の勤務する老健たきざわでは、通所リハビリテーションの部署があり、「ちょっといい話」であふれています。最近あったちょっといい話をご紹介していきたいと思います。
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看取りで入所したはずが…
90代のMさんは、看取りを含めた最期まで施設での介護を希望し入所されました。入所当時、食が細く、食事量が少なく、活気も低下して会話が少なく、ベッド上でほぼ寝たきり状態でした。
ご家族は経管栄養は希望せず、食べられるだけ食べて、食べられないときは点滴で水分を補うことを選択しました。理由は、年をとってまで鼻から管を入れたり胃に穴を開けてチューブを入れたりするのはかわいそうだから、穏やかに自然な経過でお願いしたいとのことでした。
最近は同じような経過を望む家族が多いように感じます。介護スタッフたちはご家族の希望に沿って寄り添います。
ところが、Mさんは、看護師や介護スタッフと慣れるにつれ食欲が戻り普通に食べられるようになり、会話も少しずつできるようになりました。食事ができると元気が出てリハビリも進み、基本動作訓練から立ち上がり、歩行器訓練を経て、杖歩行もできるようになり、自宅療養が可能になって現在は介護サービスを受けながら自宅で過ごしておられます。
介護施設の本来の目的は「自宅療養が可能になるためのリハビリをする所」
通常のカンファレンスのときに師長から「Mさんは、自宅療養が可能になりました」と報告を聞いたときには驚きました。「看取りで入った人が?」「ほかの施設となにが違ったのかしら?」というと、師長はにっこりして「さあ?」と満面の笑顔。「看護師や介護スタッフが頑張ったのですね。すごい!」「きっと雰囲気がよかったのでしょう。お疲れさまでした」と私は心から感心して労いました。
Mさんのように歩いては帰宅されないけれど、同じように自宅や別の有料老人ホームでの療養が可能になり退所されたほうがほかにも数人いました。そんなとき、他施設のスタッフから、「なんで?」「なにが起こったの?」と訝しげにいわれますが、私は、当施設の師長をはじめ介護スタッフの努力と元気で温かい思いやりや雰囲気が、弱弱しく看取りで入所された方を勇気づけたのだと、スタッフたちを大変誇りに思います。
介護施設は自宅療養が可能になるためのリハビリをする所という本来の目的を改めて再認識させられました。
川村 隆枝
医師・エッセイスト