介護施設へのイメージは、どうしてもネガティブに捉えられがちです。しかし実際には心温まる瞬間や、活き活きとした日常がたくさん詰まっています。高齢者が安心して過ごせる場所としての一面を持ちながら、スタッフや利用者同士の絆が生まれる、まるで第二の家のような空間です。本記事では75歳の介護老人施設長・川村隆枝氏の著書『亡くなった人が教えてくれること 残された人は、いかにして生きるべきか』より一部抜粋・再編集し、100歳越えの2人のおばあちゃんの事例を通して、いくつになっても魅力的な人の秘訣に迫ります。

介護施設は暗くて死を待つ場所ではない

皆様、「介護施設」を利用するというと、どうしてもネガティブなイメージをおもちになる方も多いかと思います。暗い・死を待つばかりの場所……もしかしたらそんなイメージをおもちかもしれませんが、そんなことは全くありません。むしろ、安心して入れる楽園のような場所だと思っています。私の勤務する老健たきざわでは、通所リハビリテーションの部署があり、「ちょっといい話」であふれています。最近あったちょっといい話をご紹介していきたいと思います。

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100歳のおばあちゃんの「好きな人」

先日、老健たきざわのデイサービスに通っているご婦人が100歳の誕生日を迎えられました。みんなでお祝いをしましたが、私は挨拶を頼まれました。そこで、ありきたりの挨拶よりはご本人に一問一答をすることにしました。

「今幸せですか?」→「はい。幸せです」

「今100歳になられましたが、あと何年ぐらい大丈夫そうですか?」→「ウーン! 30年かな?」

「長生きの秘訣はなんですか?」→「家の周りのことや、畑仕事かな?」

最後に「好きな人はいますか? 誰ですか?」彼女がすかさず嬉しそうに指をさした人はなんと、デイサービスの介護職員の男性でした。ステキです。信頼されているのですね。そういうスタッフがいることを、施設長として本当に誇りに思いました。

少し耳は遠いけれどちゃんと受け答えができ、そのなかに長生きのヒントがあり、全員拍手喝采でした。彼女にとっての毎日は、たぶんストレスがなく自分に合ったペースで幸せな人生を送られているのでしょう。

私の周りには、この100歳のおばあちゃんのように、イキイキと毎日を送られている方がたくさんいます。先日、国際ゾンタ※世界大会でオーストラリアのブリスベンに行ったときのことです。各国から約1600人の会員が参集していましたが、医学集会と違ってなんと華やかなこと! 紺ブレを着ているのは私ぐらいで、皆様色とりどりの艶(あで)やかな服装で圧倒されました。

※奉仕と支持・支援を通して女性の地位向上のために協力し合い、友好・団結により世界平和を推進することを目的として活動する、1919年にアメリカ合衆国ニューヨーク州バッファロー市で創設された、女性の事業経営者や専門職の人々による団体

失礼ながら自分よりも年上の方々も多く見られましたし、杖をついている方や車椅子の方もいましたが、みんな、一様に明るく、フランクでお元気でした。80~90代まで生きているとよくも悪くもさまざまな経験をされたと思いますが、そういう陰は微塵もなく、ボランティア活動をされている姿に感動し、勇気と元気をいただきました。70代なんてまだ若いです!

若さの秘訣

高齢期には、こんな考えをする人がいます。

・70歳を過ぎたら当たり前だったことを「やめる」

・大切にしていたものを「捨てる」

・そして過去への執着から「離れる」

・まわりに迷惑をかけないよう、静かにゆっくりと人生を過ごせばいい

そんな消極的な考えはとんでもない! これからまだまだやれることがあり、楽しいこともいっぱいあります。

誰かがいいました。「60代になると少し体がだるくなる」「70代になると今まで普通にできたことがかなり辛くなってくる」と。確かに70代になってから、体の衰えを感じます。みんなは私のことを「外見は若く見える」といいますが、実際は私だって若いころに比べたら体力も持久力も低下していると感じます。

でも、孤独、さみしさ、悲しさを味わった今だからこそできることもあると思います。若いころと比べればもちろんできないことも増えるでしょう。でも、年を重ねてさまざまな経験を経るほど、思いやりや、気配りなど、相手の立場になって考えることもできるようになってきました。

もっと自分に磨きをかけて魅力的な大人になりたいと思っています。