FPに相談してみた
FPは、まず「定期借地権」とはなにかを解説しました。夫Fさんに最も関わってくるのが、70年というポイントです。
「終の棲家としては十分な期間ですが、売却という点ではFさんの期待どおりにはならないと思います」FPが続けます。
「定期借地権付きマンションは、契約どおりの時期に必ず解体されるのが特徴です。70年とはいえ、実際には解体工事の期間もあるため、1~2年早く退去しなければなりません。築後30年経過した物件を売却しようとしても、残りは38年しかありません。38年後には退去しなければならない物件に、35年の住宅ローンを借りて購入しようとする人はいないでしょう。売れるとしたら、同レベルの物件と比べ相当安い価格設定が必要です」
「つまり、高く売るのは難しいということですか……?」とFさん。
「そうです、高く売って老後資金にしたり、お子様の人生を支える資金にしたりすることは難しいでしょう」
「では、賃貸に出すのはどうでしょうか。息子が家賃収入を得られたらいいのですが……」とFさん。
「売却ではなく賃貸に出すのは可能です。しかし物件の管理はお子様に荷が重いかもしれません。地権者が地代の値上げを要求することもありえます。入居者と設備の故障とその対応などでトラブルになるかもしれません。退去されると新しい入居者を探す作業も必要です。解体時期が近付けば、老朽化もあって、おそらく家賃はどんどん下がっていくはずです。入居者の質も下がり管理が難しくなるかもしれませんね」
「長男が71歳のときに解体されることになりますね。一生の収入にはならないし、高齢者になってから築後年数が古いマンションの賃貸管理など無理でしょう。まして長男は自閉症であるため、そんな面倒なことは難しいだろうな……」Fさんは落ち込んでしまいました。
障害のある子供を支えるために持ち家を手に入れようとする方は多いものです。しかし実際には不動産を使った資産運用には煩雑な作業が必須です。タワーマンションは資産性が高いとされていますが、定期借地権付きマンションはさらに難易度が高く、Fさんのような目的での購入はお勧めできません。
「もう、無理なのかな……」と絶望するFさんでしたが、夫妻は幸い高所得世帯であるため、マンションは売却を考えずに終の棲家とし、長男のための資産形成をまた別の方法で設計することにしました。
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定期借地権付きタワーマンションのデメリット
定期借地権付きマンションを購入する場合、デメリットが自分のライフプランにどのように影響するのか精査することが重要です。
借地権の期限が50年の場合、築15年を過ぎたころから売却は難しくなるものと理解すべきです。解体までの残年数が35年を切っていくと、購入予定者は35年ローンを借りることができなくなります。それ以前に解体まで35年しか猶予が残っていない物件に、35年ローンで購入する人はいないでしょうから、売却は不可能と覚悟したほうがよさそうです。解体時期までは賃貸に出すことは可能ですが、解体直前は入居者も見つからず、家賃を下げ続けることになるかもしれません。定期借地権付きマンションに「資産価値」という考え方は無理があるでしょう。
また、売却を考えず終の棲家ならいいかというと、決してそうでもありません。購入年齢が若ければ、借地権の期限が到来したときにもまだ生存している可能性もあるからです。たとえば30歳の人が借地権の50年の期限を迎えるのは80歳です(実際に退去するのは78歳~79歳)。人生の終盤で引っ越しを余儀なくされることになります。そのときは、マンションは売却ではなく「解体」となるため、手元に売却代金は残りません。解体後にどこに住むのか、その費用をどうするのかを考えておく必要があります。
近年、期限が70年の定期借地権も見受けられるようになりました。これならば「35年ローン×2回分」に相当する期間であるため、終の棲家としては十分であり、売却もある程度は可能かもしれません。しかし、通常の分譲マンションの寿命が100年以上と想定されることを考えると、寿命の短さは資産価値の低さにも繋がります。
借地権の期限を迎えると、子供世代にとっては「実家が消滅する」ということを意味します。期限までに子供が全員実家を出て自立し、自分の住まいを確保できるのであればいいのですが、もし障害を抱える子供がいる場合、子供が生きていくための資産としてマンションを残すことができないため、子供の将来に強い不安を感じることになるでしょう。マンション以外の資産を貯えておく必要がありますが、収入に余裕がない場合はそれも難しくなります。
定期借地権付きマンションは、住宅ローンのほかに「通常の管理費」「修繕積立金」に加え、「解体積立金(原状回復積立金)」「地代(地主への賃料)」の支払いもあります。解体積立金や地代は物件によって大きな差があり、それだけで月1万円~4万円程度となります。その支払いを含めても安い買い物といえるのか、冷静に判断する必要があります。
定期借地権付きマンションの購入は、期限の到来という「出口」で家族が何歳なのか、どのような健康状態なのか、預貯金はどのくらいあるのかを精査しながら慎重に検討する必要があります。
長岡理知
長岡FP事務所
代表