
人生において、何を削るか削らないかの取捨選択は重要です。現代社会を生き抜くうえで削ってはいけないこととは? 本校では、人気プロダクトデザイナー秋田道夫氏の著書『仕事と人生で削っていいこと、いけないこと』(大和出版)から一部抜粋・再編集し、信頼感のある大人のエッセンスであるにも関わらず、軽視されてしまうポイントをみていきましょう。
高価なスーツは手に入っても、簡単には手に入らない大事なもの
「清潔感」というのは、異性の好感度を上げるためにあると思っている人も少なくないと思います(特に男性は)。実は結構深い「人としてのありさま」を、端的かつ総合的に判断するための要素のように思います。
昔、地下鉄に乗ったときに、隣の席に座っていたビジネスマンの袖口が目に入ったんですね。袖口が、長年着用していたことを示すかのように擦れて傷んでいました。それが気になって仕方ありませんでした。やがて謎が解ける瞬間が来ました。ジャケットの裏側がほのかに見えたんです。誰もが知っている、ある海外の高級ブランド名がキラキラッと光っていました。
「そうか、このスーツを着ていることが誇りなんだ。誇りがほころんだんだ」なんてダジャレを思って、あとにしました。つまり、その方は大枚をはたいて購入したスーツに着られて「清潔感」すら忘れてしまったわけです。
わたしは「ケガをした人にとっさに差し出せるぐらい清潔なものでなければ、自分に不相当なものを身につけている」という判断基準があります。そういう意味では、いつでも(灰燼に帰しても)、何があっても構わないというものしか身につけないようにしています。
なぜ清潔感が「総合的に人のありさまを判断する」かといえば、清潔感はそう簡単に手に入らないからです。まず健康であって、血色もよく、爪もこまめに切って、毎日風呂に入り、時にはハンドクリームも塗って、睡眠も毎日8時間程度とるようにする。もちろん下着は毎日変えるし、ハンカチも毎日変える、といったことが必要だからです。
「清潔感=信頼感」だと思っているので、それをする価値はあります。高価なものを身につける必要もありません。
当たり前ですが、清潔感は内側からです。しかし、それを封じない程度には見た目も整える必要があります。そうでないともったいないんです。
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どんなに悪い状況でも「自分を信じられること」は強い
わたしは1953年生まれですが、1976年から1978年までの3年間は、オイルショックの影響で就職氷河期。その真っただ中で就職活動をしました。大学の試験倍率は20倍を超えていました。そんな競争をくぐり抜けて、いざ就職となったら就職先の会社があまりない。びっくりですね。
最初に受けた会社には落ちました。でも悲観することはなく、「これだけ難しい状況で、これだけ勉強した自分が、就職できないのはおかしい」と居直っていました。「やるべきことをやってきた」という自信があるから、デザインの神様がほうっておくわけがないと思えたのです。悪いときでも自分を信じられるかは重要です。
よく「根拠のない自信を持て」などと言いますが、わたしの場合、根拠はあったわけです。根拠のある自信はやっぱり強いです。