「外部不経済の問題」とは
さらに、顧客満足の追求には、当事者以外に負担が及ぶ外部不経済の問題があることも知られている(宮崎昭「顧客満足の外部不経済」『立命館経済学』59巻6号、2011年)。個々の企業が、それぞれ顧客満足の追求に焦点を当てるがゆえに、その周辺や第三者に生じる不利益や不満足に関心が及びにくくなってしまう。
たとえば、多くの顧客が乗用車を購入し、企業利益と顧客満足が達成されたとしても、多くの購入者の存在によって道路の混雑や渋滞が深刻化すれば、都市全体の機能低下につながり、購入者以外も不利益を蒙る。あるいは、自動車がもたらす大気汚染、騒音、交通事故なども、第三者にまで深刻な負の影響を与える(宇沢弘文『自動車の社会的費用』岩波新書、1974年)。
要するに、顧客満足の追求は、社会全体から見て望ましい結果をもたらすとは限らないのである。しかも、企業も顧客も満足してしまうために、そのことが不可視化されやすい。
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広義の「顧客満足のジレンマ」
本稿では、以上に見た顧客満足の追求をめぐる問題点、すなわち1. 生産性上昇とのトレードオフの関係、2. 時間軸で見た期待水準の上昇、3. 外部不経済の発生とその不可視化という三点をまとめて、広義の顧客満足のジレンマと呼ぶ。
これらの問題点があるにもかかわらず、企業は競争のなかにあって、顧客満足の飽くなき追求から降りられないのである。サービス産業は製造業に比べて生産性が低く、持続的な経済成長を牽引する力が弱い。顧客満足のジレンマもまた、サービス経済化のもとでの持続的な経済成長を難しくする方向に作用する。そして現実に、ポストバブルの時代にあって、サービス経済化の進む日本経済は、長期経済停滞に陥ってきた。