N国党・立花孝志氏による“百条委員会”奥谷議員への「名誉毀損訴訟」が初回期日で「敗訴」確定…その“背景”とは

NHKから国民を守る党(以下、「N国党」)代表の立花孝志氏が、兵庫県議会議員で「百条委員会」の委員長を務めた奥谷謙一氏を「名誉毀損」等で訴えている裁判の第1回口頭弁論が15日、東京地裁で行われた。

立花氏は出廷せず、前日に「請求放棄」の陳述書を提出し、これが期日に陳述されたとみなされ訴訟は終了した。請求放棄は、原告が自身の請求に理由がないことを認めて争わない旨の陳述であり、「原告敗訴」を意味する(民事訴訟法266条1項、267条参照)。

これに先立つ3月28日、立花氏は訴えを取り下げる旨の「取下書」を裁判所に提出していた。しかし、被告側はこれに対する答弁書を提出し、「取下げ」に同意せず、「請求棄却」判決を求め訴訟活動をしていく意思を明らかにしていた。

口頭弁論後の記者会見で、被告代理人の石森雄一郎弁護士は、「不誠実な対応だ」と述べた。

自身の行為に対する批判・反論が「名誉毀損」にあたると主張

訴状の記載によれば、立花氏が「名誉毀損」としていたのは2024年11月19日の記者会見での奥谷氏の発言内容である。

第一に、立花氏が立候補していた兵庫県知事選挙の「選挙運動の一環」として11月3日に奥谷氏の自宅前で行った「街頭演説」に関する発言。

奥谷氏は、立花氏の「引きこもってないで家から出てこいよ」「これ以上脅して奥谷氏が自死されても困るのでこれくらいにしておく」という発言を挙げ、この街頭演説自体が奥谷県議への脅迫目的でなされたという趣旨を述べた。

これについて、立花氏は「適法な選挙運動を、脅迫という犯罪行為であると(中略)記者会見で発言する行為は、原告の社会的評価を低下たり原告の名誉感情を侵害する不法行為」と主張している。

第二に、立花氏がSNS上で、奥谷氏が兵庫県の元西播磨県民局長の公用パソコンの中にある私的情報の内容を知っていて隠ぺいする目的で、百条委員会で片山元副知事の発言を遮ったとの発信を行っていることについて、「明らかなデマ」と述べた発言。

立花氏は、この発言について、「元県民局長が複数の女性職員らと不倫していたことは真実」「これをデマ(虚偽・ウソ)だと記者会見で述べる奥谷氏の行為は、原告の社会的評価を低下たり原告の名誉感情を侵害する不法行為」などと主張していた。

そして、これらの点について、奥谷氏に160万円の損害賠償請求を求めていた。

「訴えの取下げ」の申立てを拒否したら、第1回期日で「請求放棄」

しかし、被告が答弁書を提出したところ、その直後に、立花氏から受領書と一緒に「取下げ書」が送られてきたという。

訴えの取下げは、原告側が裁判所に対し審判の要求を撤回する意思表示であり、認められれば訴訟は最初から何もなかったことになる。

ただし、訴訟が裁判所に係属した後の「訴えの取下げ」には被告の同意が必要とされる(民事訴訟法261条2項)。これは、訴訟がすでに開始し、被告側にも勝訴判決(請求棄却判決)を得る利益が生じているからである。

そして、奥谷氏は訴えの取下げに同意せず、訴訟を継続する意思を表明する「上申書」を裁判所に提出した。

石森弁護士:「訴えの取下げに同意しなかった理由は、立花氏の請求に理由がないことを、簡単に立証できるからだ。

われわれは第1回口頭弁論だけで判決を書いてもらっても差し支えない程度に十分な主張立証を行い、答弁書を提出していた。

私も奥谷氏も、立花氏が奥谷氏の自宅前で脅迫目的で街頭演説を行ったこと、奥谷氏が百条委員会の中で事実を隠蔽するような行為を一切していないことは、いずれも簡単に立証できることだったため、訴えの取下げに同意する理由がなかった。

すると、立花氏が請求放棄書を本日付けで出してきた。私も今日、出廷して初めて知らされてびっくりした。私が弁護士になって16年間で、第1回期日で原告が請求放棄をしてきたことは一度もない。

自分から裁判を起こして敗訴判決をもらいに来たようなものだ」

立花氏側の請求放棄書を示す石森弁護士(15日 東京都千代田区/弁護士JPニュース編集部)

「原告側の主張立証の内容にも着目してほしい」

石森弁護士は、本件訴訟において原告側が、答弁書や準備書面でどのような主張立証をしていたのかに着目してほしいと述べた。

第一に、自宅前での街頭演説が「脅迫」にあたるという主張について。

石森弁護士:石森弁護士:「『出てこい奥谷』『一応チャイムだけ鳴らしておこ』『あまり脅して奥谷さんが自死されても困る』と発言している。

演説は主義主張、政策、公約などを聴衆に訴えるものだ。特定人に対し『出て来い』と強要することには演説としての正当性がなく、脅迫にあたることは明らかだ。

それに加え、奥谷県議の自宅前での街宣でも、自宅兼事務所の電話番号をスマホに表示させ、画面が暗転したらまた表示させ、執拗にカメラに映し、さらしている。

奥谷氏の電話番号をさらせばどういうことになるか当然、立花氏は知っていたとみられる。現に、立花氏が参議院議員会館内で支持者と話している動画(現在は削除されている)のなかで、N国党を批判する書籍を書いたYouTuberについて『住所を教えたるから家の前で騒ぎ立てろ』『そこには嫁も子どももおるんやろ』と述べており、証拠として提出している。

また、実際に奥谷氏の自宅兼事務所にはものすごい数のいたずら電話があり、それによって本人とその家族は怖い思いをしている」

第二に、奥谷氏が百条委員会において片山元副知事の発言を遮った理由が、元県民局長のプライバシー情報を認識しそれを隠ぺいするためではなかったという点について。

石森弁護士:「百条委員会は、兵庫県の総務部から県西播磨民局長のパソコンのデータの一部の提供を受けている。

ただし百条委員会では、同委員会の目的が告発内容の真偽を確認することにあるため、プライバシー情報は扱わないという決定をしており、それに基づき、プライバシーにかかわる部分のデータは受け取っていなかった。

したがって、奥谷氏は元県民局長のプライバシー情報を隠ぺいしようにも、そもそも知る立場にない」

最初から「請求の放棄」を選ばなかったワケ

訴えの取下げと請求放棄とは、いずれも訴訟を終了させる効果がある点で共通するが、大きな違いがある。

「訴えの取下げ」が認められると訴訟自体が初めにさかのぼって消滅し「なかったこと」になる。これに対し「請求の放棄」は、調書に記載されると敗訴(請求棄却)の確定判決と同じ効力をもつ(※)。

※請求放棄をした原告が、後で同じ訴えを提起した場合、裁判所は請求棄却判決をすることになる。この効力を既判力という(民事訴訟法267条、114条1項参照)。

石森弁護士:「訴えの取下げの場合、極端なことをいえば、後でまた同じ訴えを提起することも認められる。

これに対し、請求放棄をすると、同じ訴えを提起して紛争を蒸し返すことができなくなる。本件でいえば、今後、奥谷氏が立花氏の『奥谷氏が百条委員会で事実を隠ぺいしようとした』という発言を『デマだ』と言い、奥谷氏が自宅前での立花氏の街頭演説が『脅迫目的で行われた』と言ったとしても、立花氏は名誉毀損で奥谷氏を訴えることはできない。

まず、『訴えの取下げ』をして訴訟をなかったことにしようとしたが、われわれが同意しなかったので、せめて裁判所によって事実認定がされることを避けるため、『請求放棄』をしたと考えられる。

いずれにしても、訴訟を続ければ敗訴するのが確実でなければとらない対応だ」