◆“武蔵の凋落”が間違っているワケ
武蔵のカリキュラムは教養主義によっており、例をあげれば、大学入試と関係がない第二外国語の授業があります。基本的には受験戦争サバイバルとは全く異なる文脈での指導が行われ、受験対策については、当人の自己管理能力に大きく依存するのは否めない。
じゃあ塾に頼ればとなりますが、2012年には東大生御用達の超進学塾である「鉄緑会」の指定校からも外されてしまいました。
中学受験入試の開催日が、開成・麻布などと被る2月1日なのも逆風。
進学実績を第一に見る層は、開成や麻布に集中します。これらを受けると、自動的に武蔵は受けられません。かといって、武蔵は妥協で受かるほど簡単な学校でもない。
最近は海城高校や早稲田高校などの東大進学実績が伸びていますが、これは中学受験の入試日を2月1日からずらすとか、複数設けるとかして、「開成落ち」「麻布落ち」をうまく拾っているのも大きいのではないかと感じます。
便宜上不合格者には間違いありませんが、それでも開成受験者の大半は、大人でも敵わないほど頭が回る秀才児ばかり。これらをうまく集めて受験指導すれば、それなりの東大進学実績がとれるはず。
とはいえ、これは学校側としてもそこまで気にしていないでしょうね。鉄緑会メソッドの中核をなす「超ハイスピードの先取り学習」と「徹底的な演習漬け指導」は、武蔵の目指すところの正反対に位置しますし、進学実績を盛るために中学入試の日程を増やしたりズラしたりなんて、天地がひっくり返ってもやらないでしょうから。
武蔵は、武蔵大学と共通のキャンパスで広々としており図書館も充実しています。受験勉強以外で才能を開花させる方も多く、科学オリンピックでは日本代表輩出校の常連です。
自分の興味を伸ばしやすい環境であるのは間違いなく、今後東大推薦入試など推薦・総合型選抜がより広範に採用されたり、海外大学進学を視野に入れたりしたときに、ペーパーテスト以外で戦う力を育てるには、うってつけかもしれません。
◆進学実績が全てではない
東大合格者数は、各学校にとって、翌年志願者の数・質を大きく左右する重要な数値。筆者自身、母校から初めて東大合格者が出た際には、「○○君おめでとう! 祝東大合格」という垂れ幕が作られて、学校の外壁に掲げられたことを思い出します。
これを見て「自分も垂れ幕にかかるような実績を出そう」と感じたのは確か。「東大合格」は、やはり一定の層へキラーフレーズとなって突き刺さります。
とはいえ、本来大学受験、ひいては勉強とは実利のみを求めて行うものではないはず。
学ぶことが楽しいから学ぶのであって、学びそれ自体を効率よくクリアしていくような方法は、どちらかといえば邪道に位置します。
進学実績はどうしても気になる存在。ですが、受験に強いことがイコール幸せとはなりません。受験や実学ではなく、興味関心を伸ばす自由な学びでしかたどり着けない境地もまた、存在します。
人生の貴重な青春時代を過ごす環境だからこそ、実利より「自分らしく生きられる環境」を優先するのもアリなのかもしれません。
<取材・文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を自ら編み出し、東大合格を果たす。著書に最小限のコストで最大の成果を出すためのノウハウを体系化した著書『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』がある。株式会社カルペ・ディエムにて、講師として、お金と時間をかけない「省エネ」スタイルの勉強法を学生たちに伝えている。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)

