人生の“王道エスカレーター”は今や安全ではない
父が神戸で建築業を営み、山の手に住む富裕層の仕事を請け負っていたため、私は幼い頃から、幸せなお金持ちの暮らしを間近に見てきました。彼らの中に、従業員として生計を立てている人は1人もいなかった――。これが、私が「従業員にならない」人生を選んだ理由です。
昭和の時代も、令和の現代も、「いい学校を出て、いい会社に入り、出世をしていく」という人生のエスカレーターが王道の生き方だと信じられています。
しかし、本当の富裕層は、最初からそのエスカレーターに乗っていません。子どもの頃の私は、「一度従業員になったら、二度と戻れなくなる」と感じ、学校を離れ、仲間を集めて独自の働き方を模索してきました。
これまで私は「変わり者」「例外的存在」として扱われてきました。しかし、今や状況は変わりつつあります。なぜなら、前述した「人生のエスカレーター」が、もはや安全でも安定でもなくなってきたからです。
時代は、会社の時代から「仲間(=コミュニティ)」の時代へと、静かに、しかし確実にシフトしているのです。
世界時価総額ランキングの半数以上を独占していたが…30年あまりで凋落した日本
近年、「人生のエスカレーターは、もはや安全とは言えなくなった」と感じる人たちが、私の周囲にも増えているように思います。
経済ニュースを見ていると、かつては安泰だと思われていた電機や流通、銀行や保険会社だけでなく、一時は花形産業ともてはやされた自動車会社やテレビ局の中にも、苦境に立たされている会社が目立ちます。
たとえば、今から36年前の1989年に発表された「世界時価総額ランキング」を見ると、トップ50社のうちなんと32社が日本の会社で占められていました。1位のNTTをはじめ、上位5社を日本企業が独占していたのです。
しかし、現在(2025年)は、トヨタ自動車がかろうじて49位に入っている以外、日本企業の姿は見る影もありません。日本の会社がこの30年余りの間に大きく力を失ったことは、これらの数字を見れば明らかだと思います。
また、一時は芸能界で厳然たる影響力を誇っていた大手事務所の凋落の例に見られるように、多くの企業で不祥事やコンプライアンス違反が相次いでいます。さらには、政府の進める「働き方改革」の一環として、ワーク・ライフ・バランスを考慮した働き方が奨励されるようになり、従来は禁止されていた副業や兼業が多くの会社で認められるようになっています。
こうした状況の中で、多くの若者がこれまで理想とされた「会社中心」の働き方に限界を感じるようになりました。より柔軟で、自分が大切にしている価値観を追求できる生き方を模索する人たちが増えているのです。
フリーランス人口はわずか6年で約40%増
実際、日本最大級のクラウドソーシングサービスを手がけるランサーズ株式会社の調査によれば、2015年に937万人だったフリーランス人口は、2024年には1303万人に増えています。わずか9年で増加率が約40%というのは、かなり高い数字ではないでしょうか。
もちろん、フリーランスで働く人々がすべて若者というわけではありませんし、フリーランスの収入はあくまでも副業的扱いで、メインの収入は従業員として働いている本業から得ている人々も672万人いるとのことです。
ただ、終身雇用や年功序列を前提に高度経済成長を支えてきた団塊の世代からすれば、働き方に対する最近の若者たちのこのような意識変化は信じがたいことかもしれません。
もちろん、フリーランスの働き方には「いつ雇い主に契約が切られるかわからない」という不安定さがつきまといます。しかし、今や大会社の社員や公務員ですら、「安定」とは言い切れなくなっているのが現実ではないでしょうか。
実際、2019年には経団連(日本経済団体連合会)の会長が「もう終身雇用制度は守れない」という趣旨の発言をしました。
また、近年の世界情勢を見ても、各国で独裁的な指導者や自国ファーストや外国人排斥を掲げる政党が支持を集めています。特にこれまで民主主義や自由貿易、世界平和のリーダーとされてきたアメリカで、ドナルド・トランプのような人物が再び大統領に就任したのは、その最も象徴的な出来事だと言えるでしょう。
残念ながら、これからはますます不安定で予測不可能な時代になることは間違いありません。だからこそ、「フリーランスとして力をつけ、時代の変化に柔軟に対応できる力を身につけたい」と考える人たちが増えているのだと思います。
