
もし明日、この世から「スマートフォン」か「小麦や米などの主食用穀物」のどちらかが消えるとしたら?市場価値はどちらもほぼ互角ですが、GDP(国内総生産)で見ると、主食を支える産業はわずか1%程度の“取るに足らない存在”とされています。本記事では、バーツラフ・シュミル氏の著書『世界はいつまで食べていけるのか:人類史から読み解く食料問題』(栗木さつき訳、NHK出版)より一部を抜粋・編集し、人類が生き抜くために注力すべき産業の「真の優先順位」を解説します。
現代の経済成長の物差し「GDP」
数十年にわたって、GDP(国内総生産)は現代の経済成長の度合いを示す代表的な指標でありつづけ、「健全」と見なす率がどのくらいであるにせよ、政治家たちはそれが上昇することを望んでいる。
そうなれば当然、1人当たりの年間所得が数万ドルに達している経済規模の大きい富裕国であっても、GDP成長率が1%を下回ると「望ましくない」、「期待外れだ」と失望する。
そして経済学者たちは、GDP成長率が10%に近づいた国々に熱狂し、2桁になろうものならめまいを起こすほどだ。よって、この30年ほど、彼らが中国共産党に最大の賛辞を送るのを留保していたのもふしぎはない。
なにしろ中国のGDP成長率は、1991年から2010年にかけて9~14%を記録していたのだが、2010年代に入ると6〜7%台に落ち込んだのである。この推移はインドの経済成長とよく似ていた。
GDPの観点で軽視されがちな「食料生産」
では、こうしたGDPの数字は、食料生産についてなにを語っているのだろう?
人間が積み重ねてきたあらゆる努力のなかで、現代の経済的な基準からすると、食料生産はもっとも軽視されている。GDPにどれだけの割合を占めているかで評価するのであれば、現代社会では例外なく、食料生産は経済活動においてもっとも重要度が低いからだ。
世界の経済活動による産物のうち食料生産が占める割合はずっと低下を続けてきた。1970年には約10%だったが、2020年にはわずか4%に低下し、比較的高い割合(10%以上)を占めているのはアフリカとアジアの最貧国だけだ。
いっぽう、イギリス、ドイツ、アメリカ、日本、フランスで食料生産が占める割合は、それぞれたったの0.8、0.9、1.0、1.0、1.9%にすぎない。経済的には、食料生産以外の産業のほうが重要なのだ。
建設業、運輸業、製造業、そしてもちろん、いまではどこにでも普及している「サービス業」のほうが大きな割合を占めているのだ。サービス業は世界の経済生産の65%を占め、アメリカでは77%を占めている。
つまり2020年には、世界のGDPの合計約85兆ドルのうち、サービス業の合計は55兆ドルを超えていたのだ。
ところが、農業は4兆ドルに届いていない。しかし、経済的な重要度を示すこのランキングには意味がないし、あきらかに間違っている。
