
換金性が高く、資産性の高い金(ゴールド)ですが、近年の税務調査では厳しくチェックされる項目の一つです。特に高額な売却記録は税務署に把握されており、申告内容との矛盾はすぐに露呈します。また、故人が「いつ、いくらで買ったか」という記録の有無が、将来の家族の納税額を左右することも。本稿ではAさんの事例とともに、金相続の注意点について木戸真智子税理士が解説します。
二世帯住宅に響いた笑い声と、突然の別れ
Aさんは、両親と二世帯住宅で暮らす3人家族です。一人っ子として育ったAさんの息子も一人っ子。Aさんの両親にとっては唯一の孫。それはそれは大変可愛がられて育ちました。二世帯住宅なので、祖父母がずっとそばで孫の成長を見守れて、家族は平穏で幸せな時間を重ねてきました。
しかし、そんな穏やかな日々に影が落ちます。長らく病気を患っていたAさんの父親が亡くなったのです。
通院に付き添い、入院中も頻繁にお見舞いに行っていました。少しずつではありますが、覚悟はしてきたものの、いざ別れの日を迎えると、Aさんも息子もたまらなく悲しい気持ちでいっぱいに。しばらくはなにも考えられない日々を過ごします。そんな様子をみて、長年連れ添った夫を失くして同じく悲しむAさんの母親が、そっとあるものを差し出しました。
金庫に眠っていた、孫へのプレゼント
母親の手の中にあったのは、ゴールドコインでした。
「お父さん、ずいぶん前から集めていたのよ」
最初は趣味や資産運用のつもりで買いはじめたものでしたが、孫が生まれてからは、「いつかこの子が大きくなったときに」と、孫の誕生日に合わせて一枚ずつ買い足してきたのだそうです。丁寧に購入時のケースのまま保管されたコインの数々。
「成人のお祝いにでも渡そうと、楽しみにしていたのかもね……」
母親の言葉を聞き、Aさんの目からは再び涙がこぼれました。孫の将来を想い、コツコツと積み上げてきた父親の愛情の重さに、胸が熱くなります。
母親がふと呟きました。
「これ、いくらになるんだろうね」
その一言に、Aさんはハッとしました。自宅の名義変更や保険金の手続きだけでなく、このゴールドコインも「相続財産」として申告しなければならないことに気づいたのです。
Aさんは最近相続を経験したという知り合いに相談してみました。するとその知人は「自分で調べて申告を済ませたよ」といいます。そこでAさんは、知人の助言を受けながら四苦八苦して申告書を作成しました。
自分なりに完璧に仕上げたつもりで提出を終え、一息ついた9ヵ月後のこと。税務署から一本の連絡が入ります。
「申告内容について確認したいことがあるので、税務調査に伺います」
ゴールドコインに関する税務調査
「税務調査」という響きに戸惑ったAさんでしたが、「もし間違いがあればそのときに訂正すればいいだろう」と軽い気持ちで当日を迎えました。ところが、突きつけられた事実は、Aさんの想像を絶するものだったのです。
「ゴールドコインの評価額が、申告された金額より大幅に高額になります」
Aさんは初め、どういうことかまったくわかりませんでした。父親が遺してくれた当時の購入時の領収書や書類に基づき、正確に申告したはずだったからです。しかし、そこに大きな「評価方法の誤り」が潜んでいました。
金の評価は「買ったとき」ではなく「亡くなったとき」の価格
純金や金地金の相続税評価は、購入したときの金額ではありません。「亡くなった日の買取価格」で評価します。
金の相場は、この10年ほどで5〜6倍にも跳ね上がっています。Aさんの父親が購入を始めたのはいまから34年も前のこと。当時の価格と、高騰した現在の買取価格とのあいだには、かなりの開きが生じていました。
Aさんは、見聞きしただけで申告してしまった自分が悪いのだと反省し、修正申告をすることに。しかし、跳ね上がった納税額は、手元の資金で賄えるレベルではありません。結局、父親が孫のためにと遺してくれたゴールドコインを売却して、納税資金に充てるしかありませんでした。
さらにAさんを悩ませたのは、売却によって「譲渡所得」が発生したこと。金を売って利益が出れば、それに対しても所得税と住民税の申告・納税が必要になるのです。
Aさんにとっては非常に痛い出来事となりました。
