◆スマホの普及で「ゲームが長く、かったるい」と敬遠される野球
なぜここまで、大リーグの人気が低迷しているのか。よく指摘されるのは、「ゲームが長い」ことだ。スマートフォンの普及で、最近は身近なエンターテインメントが増えた。日々、新しい楽しみが手に入る時代に、9回まで対戦して勝敗を決める野球のリズムが合わなくなったといわれる。МLBは投球間隔を短くするなど、試合時間を短くするため強引ともいえるルール改正をしているが、若いアメリカ人は「野球はかったるい」と敬遠する。「試合数が多い」ことも、ファンを遠ざける要因だ。大リーグ30球団は1チームあたり1シーズンに162試合を戦う。試合数が多い分、1試合あたりの重要性は低くなり、長いシーズンを通じてファンをつなぎとめることができなくなっているという。
プロフットボール(NFL)やプロバスケット(NBA)に比べ、家族全員で応援できる選手が少なくなったこともMLBの悩みだった。スポーツ選手の有名ランキングで大リーグの選手が上位に入るのは数少ない。野球少年がそのまま大人になったような大谷は家族全員で応援できる選手で、MLBの救世主となった。
これだけ日本人選手が活躍している中で気になることがあった。
以前、MLBの職員採用担当者と話す機会があった。日本人選手のグッズ販売に携わる人材を探していた。日本人選手が活躍すれば、日本のファンが選手のキャラクターグッズをこぞって買い求めるので、販売量を増やすための態勢強化だった。
ただ、その求人は働く期間がシーズン中だけという限定的な契約だった。日本ではシーズンが終わっても大谷らへの注目度は高く、通年でグッズ販売に取り組んだほうが売上増につながるのではないか、と質問したところ「シーズン中だけでいい。選手の成績は水物だし、グッズの販売量もそれに合わせて変動するから。オフシーズンのことまで考える必要はない」と答えた。
長期的な戦略についての話をこの担当者に向けても、まったく乗ってこなかった。あくまでいち職員の見解であるにせよ、MLBにとって日本選手と日本のマーケットというのはその程度のものなのか、と半ばあきれた。
MLBが場当たり的な考え方で日本人選手を見ているとしたら、選手はあまりにも不幸である。スポーツとはいえビジネスなので結果がすべてではあるが、都合にいいときだけ利用するというのはスポーツマンシップにもとる。いつまでも野球人気を復活させることができない。アメリカ在住の日本人として、MLBに一抹の不安を覚えている。
【谷中太郎】
ニューヨークを拠点に活動するフリージャーナリスト。業界紙、地方紙、全国紙、テレビ、雑誌を渡り歩いたたたき上げ。専門は経済だが、事件・事故、政治、行政、スポーツ、文化芸能など守備範囲は幅広い。

