
相続税の計算においては、財産の「時価」をどのように評価するかが重要です。しかし、所得税や法人税、消費税のように「取引相手が必ず存在する」税とは異なり、相続税は代金の授受がない無償取引です。そのため、どの価格を「時価」とみなすかについて客観的な基準がぶれやすく、紛争に発展しやすい税といえます。そこで今回は、実際の判例を取り上げながら、税理士が相続税における財産の「時価」評価の考え方と、裁判に発展しやすいポイントや実務上の注意点について解説します。
〈登場人物〉
吉田課長:A社で働く課長。3人きょうだい(吉田さん、弟、妹)の長男で、2人の子を持つ。税理士とは業務上のやり取りがある。
相続税申告時に見落としがちな、財産の「時価」
相続税の申告をする際に最も重要なのは、相続財産を漏れなく把握することと、その財産の「時価」を正確に計算することです。
時価をめぐっては、所得税や法人税でも納税者と税務署長が争い、裁判になることがあります。相続税でも同様ですが、相続税と所得税・法人税では「時価」の考え方や計算方法が異なります。
吉田課長「なるほど。相続税を考えるうえでは『時価の求め方』を理解しておくことが重要なんですね。相続税の場合、『時価』はどのように定義されているんですか?」
時価は、下記のように大きく2つに分類できます。
(1)時価(狭義)
・相続税(贈与税)
・固定資産税
(2)収入金額
・所得税(収入すべき金額)
・法人税(収益の額)
・消費税(課税資産の譲渡等の対価の額)
1つは、上記(1)の狭義の時価。もう1つは、(2)の収入金額です。
なお、この収入金額は税目によって表現が異なります。これは、各税法が「収入として計上すべき金額」はそれぞれ異なるという考え方で定めているためです。
吉田課長「(2)の収入金額について、もう少しくわしく知りたいのですが」
所得税・法人税・消費税に共通しているのは、いずれも取引相手が存在する税であるということです。
たとえば、A社が所有する土地をB社に売却するケースを考えてみましょう。この場合、A社とB社が合意した金額が収入金額(=時価)として扱われます。
したがって、一般的にその土地の時価が1億円と言われていたとしても、実際の売買契約が8,000万円で成立したのであれば、収入金額は8,000万円になります。利害が対立する当事者同士が合意した金額には、客観性があると考えられるためです。
ただし、取引相手が子会社などの特殊関係者である場合には事情が異なります。このような関係では、売主と買主の間に本来働くべき「けん制作用」が十分に機能しません。この場合は、税務署長が「適正な時価」と考える金額を独自に収入金額として認定することができます。
■相続財産の評価
1.評価の原則(相続税法22条)
(1)財産
この章(相続税法)で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈または贈与により取得した財産の価額は、その財産の取得のときにおける時価による。
(2)債務
その財産の価額から控除すべき債務の金額は、そのときの現況による。
2.財産評価基本通達
実務のほとんどは、財産評価基本通達の定めにより評価する。
3.時価(財産評価基本通達1(2))
(1)時価評価する日
相続、遺贈、贈与により財産を取得した日(課税時期)で評価する。
(2)時価の考え方
それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額による。その価額は、財産評価基本通達の定めによって評価した価額による。
相続税における「時価」の考え方
吉田課長「所得税・法人税・消費税の『収入金額』の考え方については理解しました。では、相続税の場合はどのように考えるのですか?」
相続人等(相続人、遺言で財産を受け継ぐ受遺者)は、被相続人から財産を無償で承継します。つまり、代金を支払う相手が存在しない取引(=無償取引)であることが、相続税が法人税などと大きく異なる特徴です。
相続税は、被相続人の相続開始日(亡くなった日)における、土地などの相続財産の時価に基づいて課税されます。そこで、土地の時価を見積もる(評価する)必要があります(上記1(1))。
国税庁は「財産評価基本通達」を公表し、納税者にこの通達に基づいて評価するよう呼びかけています。実務でも、税理士を含む納税者の多くが、特別な場合を除きこの通達に従って評価を行っています(上記2)。
なお、相続財産から控除する債務については、相手方(債権者)が存在するため、当事者間で合意した相続開始日の金額(現況)によって控除額を決めます(上記1(2))。
吉田課長「相続税における『時価』の定義について、もう少し詳しく教えてください」
相続財産における時価は、相続、遺贈、贈与により財産を取得した日の価額とされています(上記3(1))。
また、時価は「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に、通常成立すると認められる価額」であると定義されています(上記3(2))。これは「時価」の基本的な考え方を示したものです。
さらに、相続財産の価額(時価)は、財産評価基本通達により評価した相続税評価額によるとされています(上記3(2))。
ただし、「財産評価基本通達」の法的な位置づけは、国税庁長官が国税庁内部の職員に対して発する行政内部の業務命令です。したがって、必ずしも納税者がこの通達に従う必要はありません。
しかし、納税者の立場からすると、この通達に代わる有力な申告のための資料は見当たりません。そのため、実務上は法令に準ずる扱いとなっており、多くの納税者や税理士がこの通達に基づいて評価を行っています。
