慎重派の私にできた、50代からの「仲間」

――「チャレンジするなら今だ」と思ったタイミングは?
60代、70代の先輩と出会い、お話するうちに。
もともと足首が硬かったり、心肺機能も強くなかったりと登山向きの体ではないので、すぐに本格的な登山をしようとは思っていませんでした。
でも「雲取山(標高2017m)に登れるなら大天井岳(おてんしょうだけ、長野県、標高2922m)も登れる、一緒に行こう」「60代から本格的に百名山を目指して制覇し、70代はネパールなどの山を登ってるよ」と、先輩方からポジティブなアドバイスをたくさんもらって、慎重派の私でも自然とそう思えるようになりました。
――チャレンジをして得られたものは?
まずは体力。
体を鍛えなければいけない、という義務感ではなく、「あの山を登りたい。そのための筋力、体力をつけたい」という目標に向かってする運動は楽しいもの。毎日が元気であふれるようになりました。
そして、新たな出会いです。
昔からの友人って、結婚や子育てなどそれぞれの生活を経て集まっても、だんだん話が合わなくなることがありませんか?思い出話はできるけれど、今を楽しもうとするとはなんとなくかみ合わない、みたいな。
でも、登山を通して、あの景色最高だったね、次どこの山に行く?など共通の話題が生まれたことで、新たな絆が深まったような気がしています。
ほかにも、友人のお父さん、陣馬山に一人で登ったとき出会った登山愛好家の60代女性など、新しい趣味を通して年代も性別も超えた「山友」がたくさんできました。好きなことをめいっぱい話せる先輩、仲間がいるって本当に楽しいし、心強い。
私の登山歴でも大丈夫と、彼女が言ってくれなかったら、北アルプスに挑むなんてずっと先になっていたと思います。

――日本百名山を制覇するためのステップはどう進めましたか?
東京唯一の日本百名山、雲取山を目指したのは登山を始めて1年後。
ウォーキングを毎日12㎞、週1で高尾山周辺の山などに登って備えました。当日は天候が悪く、山頂からの景色も霧で見えなかったのですが、今まで味わったことのない達成感を得られました。
3年目には北アルプスに挑戦。前述の60代の山友に誘われて、山岳ガイドさん付きの2泊3日で大天井岳などに登りました。
4年目に入ってからは南アルプスにも登るようになり、現在、50座を踏破しています。
3000m級の山、槍ヶ岳(長野県・岐阜県、標高3180m)を制覇したときは遂に登れた~!!と本当にうれしくて、景色も圧巻でした。
今後は年に10座くらいを目指しています。北海道や九州など遠征が必要な山を残しているのでペースは落ちてくると思いますが、あと5年、60歳で制覇したいですね。
「百名山のれん」って知ってます?日本百名山が描かれていて、制覇した山のピンバッジを刺していくというもので、登山愛好家に人気なんです。楽しいし、モチベーションを上げてくれます。
体がもたない…「自己流」の限界を感じて

――もともと体力に自信はありましたか?
全然ありませんでした。
40代は仕事に夢中で忙しくしていたので、1日ずっと座りっぱなしでした。個人サロンで営業する日は通勤もないので、ほぼ歩きません。
せめてもと毎朝のウォーキングだけは気分転換になんとか続けていましたが、登山を始める50歳までの10年は運動不足。特に下半身を使っていなかったので、久しぶりのハイキングでは筋肉痛の前に「足がかゆい!」って大騒ぎ。
運動が足りなくて老廃物が溜まっていると、血流がよくなったとき、身体が炎症を起こしたと勘違いしてかゆくなることがあるらしいです。
このままでは登山どころではなくマズイ、と実感しましたね(笑)
――トレーニングはどのように続けているのですか?
最初の3年は登山家さんのYouTubeを見たりしながら、自己流でやっていました。
ですが、3年目、直線的な急坂が続く男体山(栃木県、標高2486m)に登っていたとき、暑さもあって9合目付近で苦しくなってしまったんです。
筋力だけでなく、肺活量が少ないなど実力不足を感じ、日本百名山を制覇するには自己流のトレーニングだけでは無理かもしれない、と感じました。
そこで頼ったのが、インスタグラムで見つけた65歳の登山トレーナーのはこさん(@haco_climber)。週3日、5㎞を走るパーソナルメニューには坂道ダッシュやインターバル走などが組み込まれていて、心肺機能や脚力を強化しました。
3か月の指導期間で明らかな成果が出て、南アルプスにも登れるようになりました。
――登山アイテムなどはどうやって揃えましたか?
私が何より重要視しているのは登山靴と登山リュックの二つ。自分の足型に合っていて、山登りに適した靴でないと、途中で痛くなってしまいます。登山用リュックは軽くて背負いやすいものでないと、疲れてしまいます。この二つだけは自分の体にフィットするものを選ばないと登山を楽しめないので、はずせません。
登山アイテムは機能やデザイン、価格帯も豊富なので、自分の予算や好みにいくらでもアレンジできます。高尾山くらいならスニーカーでも歩けますし、まず登ってみて必要だと思ってから買い足していくと無駄な出費を抑えられると思います。
――時間やお金のやりくりは?
最近、5年目にしてようやくわかってきたのですが(笑)、山は全国各地にあるので、日本百名山の完全制覇には計画性が不可欠です。特に私はリスクの高い冬山には登らないようにしているので登山シーズンは短い。
効率よく回らないと元気なうちに制覇は難しいので、登山のない冬に年間スケジュールを組んでいます。
こうしておけば仕事との調整もしやすいし、1年でかかる予算の見通しもつくのでオンシーズンは安心して楽しめます。逆に冬は節約の日々です。
――憧れの女性はいますか?
登山家の渡邊直子さん(編注:1981年生まれ)。
世界には8000mを超える山が14座あるんですが、2024年10月に渡邊さんは日本女性で初めてそのすべての登頂に成功したんです。
よくインスタグラムで彼女の活動を見ているのですが、40代の女性で、長い間看護師として働きながら、多額な遠征費用も捻出されていて。また、ヒマラヤトレッキングを企画されて、多くの人に壮大な世界を見る機会も提供されている。行動力、スケールの大きさ、憧れますね。

