◆出張帰りの静かな車内に異変が起きた

発車して間もなく、通路を挟んだ隣の席に一人の男性が座った。30代後半ほど、黒いジャケット姿で、顔がやや赤らんでいた。座るなり缶チューハイを開け、「やっと終わったわ」と独り言のように声を漏らす。山川さんは最初、それほど気に留めていなかったという。
しかし彼の態度は次第にエスカレートしていった。
◆イヤホンなし、電話もそのまま。周囲に配慮ゼロの振る舞い
1本目の缶チューハイを飲み干すと、男性はスマートフォンで動画を再生し始めた。イヤホンは使わない。バラエティ番組らしき笑い声が車内に響き渡り、周囲の乗客がちらりと視線を送る。だが男性は、そうした視線にまったく気づいていない様子だった。続いて電話がかかってくると、男性は座席に座ったままそれに出た。「今さ、新幹線なんだけどさ、マジで上司がさ」——大声の通話が始まる。静寂を好む新幹線の車内に、他人の職場事情が響き渡った。
山川さんが「極めつけ」と表現するのは、その後に起きたリクライニングの一幕である。後方確認をまったくせず、男性は勢いよくシートを倒した。後ろに座っていた年配の男性が「ちょっと、急に倒さないでください」と困惑した声を上げると、返ってきたのは「別に いいでしょ?」という不機嫌そうな一言だった。
「車内の空気が一気に張り詰め、私は思わず肩をすくめました」と山川さんは振り返る。

