
高市政権が掲げる「積極財政」に対し、世間からは財政悪化を懸念する声が絶えません。しかし、国の税収が過去最高の80兆円を超える見通しとなるなか、著者は「かなりの確度で大丈夫だ」と語ります。本記事では、広木隆氏の著書『株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実』(日経BP)から一部編集・抜粋し、「責任ある積極財政」をスローガンに掲げる高市政権の経済戦略方針について解説します。
税収「80兆円」超え…高市政権の「積極財政」には安心感
「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を引き下げていくことで、財政の持続可能性を実現し、マーケットからの信認を確保していきます」
これは高市首相が所信表明演説で、「責任ある積極財政」の考え方の下、戦略的に財政出動を行うと述べた後に続けた言葉です。
さらに片山さつき財務相は衆院財務金融委員会で、政府債務残高の対国内総生産(GDP)比率を安定的に引き下げる方針について、「成長率の範囲内に債務残高の伸び率が抑えられると(債務の)発散が起きないことになる」と説明。これはまさに高市さんの方針を裏書きした発言です。
財政拡張による財政悪化懸念に対して、政府は「大丈夫です」と答えているのですが、世間には「本当に大丈夫か?」という疑念の声が絶えません。
しかし、僕はかなりの確度で「大丈夫」だと考えます。なぜなら財政状態が改善傾向にあるからです。その要因はインフレと景気回復です。
2025年度の国の税収(一般会計)は80兆円を超え、6年続けて過去最高を更新する見通しです。企業業績も連続して最高益を更新するなど好調ですが、そこにインフレも一役買っています。
インフレで企業の売上や利益が膨らめば、税収増にもつながるわけです。実際、政府の税収は、物価の影響を受ける名目GDP(国内総生産)の伸びと歩調を合わせて増えてきました。
一方、歳出は高齢化に伴う社会保障費などを除き、名目GDPほどは伸びていません。この差の分だけ、財政健全化のひとつの指標である基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)などのフローの指標は改善しています。
さらに、一般政府債務残高/GDP比というストック(これまでの累積債務の指標)もコロナ前を下回る水準まで戻っています。分母のGDPがインフレと景気回復で膨らんだ一方で債務がそれほど伸びていないためです。
「インフレによるまやかし」という指摘は本当か?データが示す財政の“正しい評価軸”
この債務残高のGDP比が低下していることについて、高名な経済学者で偉い大学の先生が、「インフレで低下しているだけで実質的には成長していない、まやかしだ」と批判しておられます。おっしゃる通り!です。ですが、いまさらそんなことを言ってもナンセンスでしょう。
先生のご指摘はごもっともですが、債務残高のGDP比がインフレによって低下しているにすぎないから財政状況の改善とはいえない、という評価は、やや評価軸の置き方を誤らせるおそれがあります。
というのも、政府債務は名目値で存在し、名目値で返済されるものである以上、その持続可能性を規定するのは名目GDPとの関係だからです。財政の動学を考える際に決定的な意味を持つのは、実質成長率ではなく、名目成長率と金利の関係です。
名目GDPが拡大することで債務の対GDP比が低下するのであれば、それは教科書的な意味において財政負担が軽減していることを意味します。この点を「まやかし」と表現してしまうと、財政分析の国際的な標準的枠組みそのものを否定することになりかねません。
実際、債務残高のGDP比という指標は日本固有のものではなく、むしろ国際的に最も広く用いられている財政指標です。欧州債務危機の際にも各国の財政状況はこの指標によって評価されましたし、IMFや欧州委員会による債務持続性分析もすべて名目GDP比に基づいて行われています。
他国についてはインフレによる比率の低下を財政改善要因として評価しながら、日本の場合に限ってそれを「実質的ではない」と退けるのであれば、同じ指標を異なる基準で扱うことになり、比較可能性を損なうことになります。
さらに歴史的に見ても、インフレと名目成長によって債務の実質的負担が軽減されてきた事例は少なくありません。第二次世界大戦後の主要国の債務調整も、財政黒字の積み上げだけで達成されたわけではなく、名目成長の力に大きく依存していました。
したがって、名目GDPの拡大によって債務GDP比が低下する現象そのものは、決して例外的でも恣意的でもなく、むしろ財政調整の典型的な経路の一つです。
