その背景には、職場の人間関係や労働条件だけでなく、「思っていた仕事と違った」という配属ミスマッチもある。実際、マイナビの2024年の調査では、勤務地・配属先がともに希望通りだった新入社員は59.9%にとどまった。
地方の製造業の会社に正社員として入社した藤田照之さん(仮名)には、忘れられない同期がいるという。その男性は、入社からわずか3日で退職した。理由として職場で囁かれたのは、上司が何気なく口にした“ある言葉”だった。社会に出たばかりの若者にとって、それはどれほど大きな重みを持つのだろうか。
◆真面目にメモを取り、遅刻も欠勤もなかった同期の男性

「例の同期は、身長は170cmくらいで、髪の毛が少しぼさっとしていて、全体的におとなしい印象でした。こちらから話しかけると『はい』『そうですね』と相槌は打つんですが、自分から積極的に話しかけてくることはあまりなくて、会話も長く続かないタイプでした」
入社前は地元のカラオケ店でアルバイトをしており、人と接する仕事の経験がなかったわけではない。だが職場では、周囲の様子をうかがっているような雰囲気がどこかにあったという。
入社初日から、現場の説明や簡単な作業の指導が始まった。彼はメモを取りながら真面目に話を聞いており、仕事を投げ出すような様子はまったくなかった。遅刻も欠勤もなく、表面的には「ごく普通の新入社員」として初日と2日目を過ごしていた。
ただ、休憩時間になると一人でいることが多かった。同期同士が雑談している輪の中には、あまり入ってこなかったという。それが孤立しているというわけでもなく、ただ静かに座っているという様子だったと藤田さんは言う。
◆「転勤もあるかもしれない」その瞬間、表情が曇った
転機は入社3日目の午後に訪れた。現場で直属の上司が、業務の説明の流れで何気なくこう話した。「この仕事は将来的に転勤の可能性もあるからな。別の工場に行ってもらうこともあるかもしれない」
そのとき、彼の表情が明らかに曇ったと藤田さんは話す。
「それまでは無表情に近い落ち着いた様子だったのに、その瞬間だけ、少し戸惑ったように視線を落としていました」
上司がその場を離れたあと、藤田さんが何気なく「転勤とか大丈夫そう?」と声をかけた。すると彼は少し間を置いてから、小さな声で「……あんまり、遠いのはちょっと」と答えた。
「控えめな声でしたけど、はっきりと不安を感じているように聞こえました」

