◆積み重なった苛立ちと放った一言
たまたま、その高齢女性の買い物カゴの中身が目に入りました。和牛のステーキ、中トロの刺身、そして色とりどりのフルーツ。どれも高級感のある品ばかりです。
「いや、別に何を買うかは自由なんですけどね。ただ、なんか余計にモヤっとして」
自分は時間に追われながら必要なものを買いに来ている一方で、優雅な買い物をしている様子。それが、これまでの鬱憤(うっぷん)に火をつけたようです。
武井さんは、あえて聞こえるように声を出しました。
「人生の残り時間を考えれば、私の1分よりあなたの1分の方が大切だもんね」
皮肉たっぷりなフレーズを耳にした高齢女性は驚いた様子で一瞬振り向き、悔しそうな表情を浮かべたそうです。
その後は何もなかったかのように武井さんに背を向けたままだったといいます。
「自分でも、なかなか嫌な言い方をしたなって思いました(笑)。でも少しスッキリしました」
会計を済ました高齢女性は、武井さんを睨みつけたかと思うと、再度何もなかったかのようにゆっくり店を出て行ったそうです。
周囲の客も一連のやり取りには気づいていたようですが、誰も口を挟むことはありませんでした。ただ、空気がわずかに変わったのは感じたといいます。
「ちょっとスッキリしましたね。言ってやったという解放感はありました。それ以来、その女性の姿を見ることはなくなりましたね」
<TEXT/八木正規>
【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営

