正解は「損か得か」では決められない
年金受給の開始年齢は原則65歳ですが、希望すれば最短60歳から受け取ることも、最長75歳まで繰り下げることもできます。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業年報(令和5年度)」で繰上げ・繰下げ受給状況をみると、国民年金の受給権者(基礎年金のみ)の繰上げは146.5万人で24.5%、繰下げは12.9万人で2.2%となっています。
また、厚生年金の受給権者(特別支給の老齢厚生年金の受給権者を含まない)の繰上げ・ 繰下げ受給状況では、繰上げは26.0万人で0.9%、繰下げは44.5万人で1.6%です。
繰上げは一見“よくある選択”に見えますが、実際には主に生活事情の厳しい層に偏っているのが実態です。佐藤さんのような厚生年金受給者での選択は、少数派だということがわかるでしょう。
繰上げれば1ヵ月につき0.4%減額、繰下げれば0.7%増額。数字だけを見ると繰下げの方が得に見えますが、70歳まで(5年)繰下げた場合の損益分岐点は82歳前後。実際に得する条件は「長生き」になります。
一方で、繰上げは早く年金を受け取れるというメリットはありますが、受給額が減る、障害年金を請求できない可能性がある、65歳以前では遺族厚生年金と老齢年金のいずれかしか受給できないといった注意点もあります。
繰上げ・繰下げのどちらが得かは結果論であり、正解はないというのが実情なのです。
老後を前にした「節目」に立ち止まってみる
佐藤さんは現在64歳。生活は決して派手ではありませんが、日々に満足しているといいます。
「朝、近所を散歩して、気が向いたら妻と出かける。最近は美術館をゆっくり回るのが楽しいです。以前はまったく興味なかったのに(笑)」
国内を中心とした節約旅行も楽しみのひとつ。資産運用を続けながら、必要以上に取り崩さない生活を心がけています。
佐藤さんのように「今を生きたい」と感じる人もいれば、「将来に備えたい」と考える人もいて、どちらも間違いではありません。
繰上げにも、繰下げにも、メリット・デメリットがあります。また、仕事に全力を注ぐ人生もあれば、早めに自由な時間を手に入れる生き方もある。どちらが正しいという話ではありません。
ただひとつ言えるのは「もっと早く考えておけばよかった」と後悔しないために、50代という節目で一度立ち止まってみる価値はあるということでしょう。
