「減らせる支出」だけでなく、「増える支出」にも目を向ける
筆者の事務所にも、同様の相談は毎年数件寄せられます。FPの立場として、移住を検討する人に押さえておいてほしいポイントが3つあります。
1.移住前のキャッシュフロー試算は「実費ベース」で行う
移住後の家賃や食費といった「減らせる支出」だけに目を向けるのではなく、車の維持費や住宅の修繕費、地域の会費といった「増える支出」を含めて、10年間のキャッシュフローを試算し数字として可視化することが重要です。
佐藤夫婦もこの試算を事前に行っていれば、毎月約13万円の赤字が生じることが事前に把握できたかもしれません。
2.医療と交通の「アクセスコスト」を、加齢とともに織り込む
65歳の時点では元気でも、75歳、80歳になれば通院頻度は上がりがちです。そのとき、「片道40分の運転を続けられるのか」「免許返納後の移動手段はどう確保するのか」といった移動負担をシミュレーションし、将来発生するであろう「アクセスコスト」を、家計に織り込んでおく必要があります。
3.「短期滞在」で地域コミュニティとの相性を見極める
1週間や2週間でも構いません。実際にその土地で生活し、地域行事に顔を出し、日常的な人間関係を肌で感じることをお勧めします。老後の暮らしにおいては、資産よりも“心の安定”のほうが生活満足度に直結するためです。
佐藤夫婦は現在、都内郊外の賃貸マンションへの逆移住を進めています。預金残高は1,400万円で、年金月22万円の場合、筆者の試算では家賃9万円ほどであれば、医療費や生活費の変動を考慮しても、今後12〜15年ほどは安定した生活が見込める見通しです。その後は、子どもとの同居や公的支援制度の活用も視野に入れ、段階的に備えていく計画を立てています。
「先生、やっぱり人が多くてある程度“無関心”でいてくれる場所のほうが、私たちには合っていたみたいです」
そう笑って帰っていく2人の後ろ姿が、いまも印象に残っています。老後設計を考える際に、この記事がなにかのヒントになれば幸いです。
波多 勇気
波多FP事務所 代表
ファイナンシャルプランナー
