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「父を軽蔑していました」…60年前、資産4億円の母と結婚して一生働かなくていい富裕層になった父。“父が無職”の家庭で育った60歳長男が選んだ〈自分なりの生き方〉

「父を軽蔑していました」…60年前、資産4億円の母と結婚して一生働かなくていい富裕層になった父。“父が無職”の家庭で育った60歳長男が選んだ〈自分なりの生き方〉

孤独のなか、病室で知った「父の背中」の正体

その後、妻から離婚を申し出られ、息子も大学進学とともに家を出ていきました。一人ぼっちになったAさんのもとへ、追い打ちをかけるように実家で暮らす弟から「父、危篤」の連絡が入ります。

入院先の病院で、もうすでに意識がなくなった父親と二人きりになったとき。Aさんの口から不意にこぼれたのは、幼いころの思い出でした。

「子どものころ、延々と一緒にキャッチボールで遊んでくれたよね。やろうよ、というと嫌がらずに絶対遊んでくれた。双子の世話で大変だったのにね。自転車の乗り方も、父さんが教えてくれた。……俺の息子は、知らないあいだに自転車に乗れるようになっていたよ。そういうところなんだろうね」

父親の葬儀には、驚くほど多くの人が集まりました。誰もがその人柄を偲ぶなか、古い友人の一人が双子のAさんらに、泣きながらこう語ってくれたのです。

「お父さんは、海外でも本当に優秀だったんだ。だけど、足の悪い奥さん一人じゃ双子の世話は大変だから、ってすっぱり辞めたんだ。当時の日本で男が家庭に入るのは偏見を持つ人も多くて。“財産狙い”みたいにいわれたこともあって、可哀そうな時期もあったよ。義理の親父さんの不動産の管理も大変だったはずだが、顔には出さず、一生懸命に家族を守っていた。あんたたちみたいな立派な息子に恵まれて幸せな人生だったと思うよ」

現在、60歳で定年退職を迎えたAさんは実家に戻り、弟が建てた小さなマンションの一室で一人で静かに暮らしています。

父が亡くなったことで、相続が発生しました。母方の実家から引き継がれた不動産資産や現預金は、Aさんと弟のあいだで均等に相続されました。しかし、Aさんは相続した資産を「自由に使えるお金」とは感じていません。実家の不動産管理は弟が事業として引き継いでおり、Aさんとしては自分の相続分を勝手に売却して現金化するなどという発想には到底至らないからです。そこには、かつて「実家の金で生きる」ことを軽蔑し、自分の稼ぎのみを誇りとしてきたAさんのプライドがありました。

現職時代に大声で笑い、大声で怒鳴り散らしていたときとは別人のようです。最近は、地域の子ども食堂でボランティアをしています。それが、離ればなれになってしまった息子への贖罪なのかはわかりません。その姿は、亡くなった優しい父親と重なるものがありました。

人生の最後に残るもの

人生の資産には、金融資産だけでなく、家族関係・健康・地域とのつながりといった“無形資産”が存在します。Aさんは人的資本を仕事に集中投下した結果、家族という無形資産を債務超過にしてしまいました。対照的に父親は、祖父から受け継いだ金融資産を基盤に、家族の幸福度を高める方向へ人的資本を再配分していました。Aさんが「家の金で生きている」と軽蔑していた父こそ、実は一家の総資産を最適化していたのです。

定年後に残るのは、通帳の数字だけではありません。孤独という“みえない赤字”を抱えてしまえば、どれだけ貯蓄があっても人生の満足度は上がりません。Aさんが子ども食堂でボランティアを始めたのは、失った家族という資産の代わりに、地域社会へ人的資本を再投資する行動です。人生後半の豊かさは、金融資産と無形資産のバランスによって決まります。

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表

提供元

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