【対策】特定財産承継遺言を作成し、遺言の執行者を指定しておく
裁判所に持ち込まれる遺産分割争いのうち、約8割近くが遺産額5000万円以下の一般的な家庭で起こっているという実情を踏まえると(令和4年度司法統計)、利夫さんは自分亡きあとに長男と長女が争うことのないよう、自身の判断能力が低下する前に有効な生前対策を講じておく必要があります。
具体的には、「実家の土地と建物の持分は長男に相続させる」といった内容の「特定財産承継遺言」を作成し、遺言のなかで遺言執行者を指定しておくことです。
特定財産承継遺言とは、遺産の分割方法の指定として、特定の財産を共同相続人の1人または数人に承継させる旨の遺言をいいます(民法第1014条2項)。以前は、このような遺言を「相続させる旨の遺言」と呼んでいましたが、令和元年施行の改正民法により「特定財産承継遺言」という呼称に変更されました。
特定財産承継遺言が作成されているときは、相続させる特定の財産の所有権は当該相続人にただちに帰属することになりますので、その特定遺産(本事例の場合、実家の土地や建物の共有持分)は遺産分割の対象にはなりません。
また、有効な遺言書がある場合でも、遺言内容に不満を持つ相続人の協力が得られず、相続手続きが進まないということが少なからず起こります。そんな場合でも、遺言で遺言執行者を指定しておくことで、相続手続きをスムーズに進める有効な手段となります。
遺言執行者とは、相続人を代表して、遺言の内容を実現するために必要な一切の手続きをする人のことです。遺言執行者は、相続手続きを単独で行う義務と権限を持っており(民法第1012条①)、相続人でも遺言の執行を妨げることはできません(民法第1013条①)。
遺言執行者になれる条件は「未成年者および破産者以外の人(民法第1009条)」で、法人でも、相続人のうちの1人でも、専門家(税理士や行政書士など)でも、遺言執行者に指定することはできます。
ただし、相続人のうちの1人が遺言執行者に指定されて相続手続きをする場合、他の相続人から公正さを疑われたり、金融機関によっては預貯金の解約や名義変更に応じてもらえなかったりする場合もあるため注意が必要です。
※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があり、また個別の事案に対する助言を行うものではありません。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。
平田 康人
行政書士平田総合法務事務所/不動産法務総研 代表
行政書士/宅地建物取引士/2級FP技能士
国土交通大臣認定 公認不動産コンサルティングマスター
