働けば働くほど、支援が消える…自立を阻む「制度のジレンマ」
ママ友の手取りは約17万円です。一見、生活できそうにみえる金額ですが、ルナさんとママ友とのあいだには「現金」以上に大きな隔たりがあります。
生活保護受給者のルナさんは、医療費が無料(医療扶助)であり、国民年金保険料の免除、水道料金やNHK受信料の減免措置を受けています。一方、働くママ友はこれらをすべて自腹で支払わなければなりません。
「友人はいつも疲れています。子どもが熱を出せば仕事を休み、その分給料が減り、さらに医療費を払う。休んだときにはお菓子を同僚に配るそうです。一方で私は、子どもの体調が悪ければすぐに病院へ連れていき、そばにいてあげられる。もし私が彼女のように働けば、手元に残るお金が数万円減るだけでなく、保育料や医療費、そしてこれまで免除されていたあらゆる生活のコストが一気にのしかかります。彼女の家計は、いつパンクしてもおかしくない状態にみえます」
生活保護制度には「勤労控除」という、働いた収入の一部を自分の手元に残せる仕組みがあります。しかし、一定額を超えれば、働いて得た収入のほぼ全額分が保護費から差し引かれます。これは実質的に「働いた分だけ課税される」ような状態であり、少しでも生活を楽にしようと働く意欲を構造的に削いでいます。
さらに、生活保護を抜けた瞬間に、すべての免除(医療、税金、公共料金)が消滅します。この「崖」があまりに急勾配であるため、ルナさんのような幼い子を持つ親にとって、自立への一歩は「崖から飛び降りる」ようなリスクを伴うのです。
「目の前の生活」にとらわれた先
生活保護制度は、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を守るための重要な権利です。しかし、現在の制度設計では、一度受給が始まると「自立したほうが生活水準が下がる」という逆転現象が起きることもあり、特に単身で育児を担う女性がそこから脱却するのは容易ではありません。現在の制度において、ルナさんが直面しているのは「働くと最低限度の生活維持が不可能になる」という物理的な欠陥です。
〇資産保有の制限:将来の自立資金を貯めることが許されず、常に「貯金ゼロ」であることが条件であるため、保護を抜けたあとに家電が壊れたり、急な出費があったりすれば即座に再受給に逆戻りしてしまいます。
〇生業扶助の限界:資格取得を支援する制度はありますが、上限額が低く、地方で「受給額を上回る手取り」を得られるような高度な専門スキルを習得するには不十分なケースが目立ちます。
ルナさんの「抜け出すのが難しい」という実感は、個人の意識だけの問題ではなく、生活保護と労働市場のあいだに「滑らかな階段」が存在しないことへの悲鳴ではないでしょうか。
今後の日本社会において、物価高と低賃金が続く限り、この逆転現象は解消されません。必要なのは、受給者に対する「意識改革」の強要ではなく、「働いた分だけ、確実に生活が上向く」という当たり前の実感を保証する制度のアップデートです。
たとえば、保護を抜けたあとも一定期間は医療費助成を継続したり、自立のための貯蓄を一定額まで認めたりといった、段階的な支援が欠かせません。ルナさんが「未来のための踏み台」として制度を使いたくても、その踏み台があまりに不安定で、登れば登るほど足場が崩れていくような現状。彼女の「停滞」を攻める前に、私たちは現状の構造の問題点を直視する必要があります。
