◆窓の外を転がる黒い物体

目的地は隣県。最寄りのインターから高速へ乗り、約1時間半走り続ける予定だった。
季節はGW、冬用のスノータイヤからノーマルタイヤへの交換を済ませ、初めての遠出に出かけたタイミングだった。タイヤ交換は毎年ガソリンスタンドのプロに依頼していたため、母はまったく不安を感じていなかったという。
異変が起きたのは、最寄りインターから2つめのインター手前あたりだった。左車線を走行していると、運転席の窓の外を、黒い物体が前方へ転がっていった。よく見ると、それはタイヤだった。
幸いなことに、右車線にも後続にも車はなく、前方車両とも十分な距離があった。母は「どこから来たタイヤだろう」と考えた瞬間、車体がガタンと大きく傾いた。
◆「あのタイヤは、私の車のものだ……」
傾いた車体が、すべてを物語っていた。前方のタイヤは、自分の車から外れたものだったのだ。「あのタイヤは、私の車のものだ……」
母はすぐに冷静さを取り戻し、まだ制御できるうちに車を路側帯へ停車させた。そして各所へ連絡を入れ、車は引き上げてもらうことになった。帰省は諦め、戻ることになったという。
「まだ住んでいる市内を出たばかりの出来事だったので、迎えにも行きやすかった。不幸中の幸いだったと思います」と黒木さんは振り返る。
そしてこう続ける。
「ケガなく帰ってこられたことも、奇跡だと思っています」
右車線に車がいれば、後続に車がいれば、あるいは前方車両との距離が近ければ……。状況が少し違うだけで、深刻な接触事故につながっていた可能性は十分にある。高速道路を走る車から外れたタイヤが、どれほどの危険物になりうるか、想像するだけで背筋が冷たくなる。

