「東京くらい、俺の運転で余裕っしょ」
その言葉は、GWの渋滞と昼に食べた大盛りカレーによって、見事に粉砕された。高澤文雄さん(仮名)が、笑うに笑えない車中でのハプニングを明かす。
◆昼飯の大盛カレーの山が、渋滞中の腹痛で噴火寸前!

「電車より自分の車のほうが先輩らしく見える」。そんな見栄を胸に、高澤さんは意気揚々とハンドルを握った。行きは拍子抜けするほど順調で、イベントでの買い物も盛り上がり、「それめっちゃ可愛い!」「買いすぎじゃないですか?」と3人で笑い合った。
問題は、昼食の場でも見栄が止まらなかったことだ。
「俺、大盛りで」
運ばれてきたカレーは皿の上で山を作っていた。あやこちゃんに「すご……先輩、食べきれるんですか?」と笑われると、高澤さんは得意げに「こういうの余裕だから」と返し、そのまま勢いで完食した。
「今思えば、あの一皿がすべての始まりでした」
そして帰り道、東京の道は甘くないと痛感させられる。
首都高の入口を間違え、車線変更もままならない。後続車からは容赦なくクラクションが響く。ナビだけが冷静に「まもなく右方向です」と告げるが、右も左も車だらけでどうにもならない。高澤さんのハンドルを握る手には、じわりと汗がにじんだ。

(やばい、腹が痛い……)
やがて噴火寸前。さらに助手席のけんしょうくんも膝を閉じてもじもじしている。高澤さんは余裕のある先輩を装って言った。
「近くのコンビニ寄ろうか」
もちろん、自分も限界だった。しかし東京のコンビニは厳しかった。寄っても寄ってもトイレがない。あっても貸してくれない。店を出るたびにけんしょうくんの顔色は悪くなり、後部座席のあやこちゃんも、さっきまでの笑顔が消えて口数が減った。バックミラー越しに、その唇がきゅっと結ばれているのが見えた。
高澤さんは「あ、この車、3人とも我慢してる」と気づいた。
車内から完全に会話が消えた。聞こえるのはウインカーの音と、渋滞した車の低いエンジン音だけである。
◆コンビニの前で先輩の威厳が崩壊
半分パニックになりながら走り続けた高澤さんが、細い脇道の先にようやくコンビニの看板を見つけた瞬間、我先に高澤さんは救急搬送される人のような勢いで車を停めてトイレへ飛び込んだ。トイレはあった。貸してもらえた。助かった。しかし、ドアを開けて外に出た瞬間、別の意味で固まった。
あやこちゃんが、トイレの前で静かに待っていたのだ。
つまり高澤さんが中で立てた、聞かれたくない音のすべてを、彼女は黙って聞いていたことになる。先輩としての威厳は、首都高でも、コンビニでも、完膚なきまでに失われた。
コンビニの外に出ると、けんしょうくんが青い顔で立ち尽くしていた。
小さく「……もう、出ました」と言った彼は、あやこちゃんを先にトイレへ行かせるために、外で一人、静かに漏らしていたのだった——。

