
住宅価格の高騰と共働き世帯の増加を背景に、ペアローンでマイホームを購入する家庭が増えています。夫婦の収入を合算すれば借入可能額は増え、選択肢も広がります。合理的に見えるその選択ですが、離婚や収入減少などの変化が起こった際に、思いもよらぬ“足かせ”になることもあります。本記事では、ある共働き夫婦のケースをもとに、ペアローンのメリットの裏側にあるリスクと備え方について、CFPの伊藤寛子氏が詳しく解説します。
子どもたちのために広い家を…6,000万円の戸建て購入を叶えた方法
都内近郊で暮らす会社員の相葉陽一さん(40歳)と妻の美咲さん(38歳)。ともに正社員として働き、世帯年収は約1,000万円。保育園に通う子どもが2人いる、ごく一般的な共働き家庭です。
子どもたちの成長とともに、それまでの賃貸マンションが手狭になり、「そろそろマイホームを」と考え始めました。当初、陽一さん単独での借入可能額は約4,500万円。しかし、その予算では、当時でも希望エリアで条件に合う物件はほとんど見つかりませんでした。
そんなとき、不動産会社の担当から提案されたのが「ペアローン」でした。
「奥さまも正社員ですし、ペアローンにすれば借入可能額は大きく伸びます。ご希望のエリアでも選択肢が広がりますよ」
さらに、住宅ローン控除も夫婦それぞれで受けられるという説明に、「合理的な選択だ」と感じた2人。 「どうせなら、子どもたちに広い家を用意してあげたい」という思いが後押しとなり、2人はペアローンを組み、約6,000万円の戸建てを購入することを決めました。
それぞれ35年のフルローンを組み、夫婦合わせた月々の返済額は約17万円。教育費はまだ本格化しておらず、家計には一定の余裕があります。共働きの2人にとっては「分担すれば払えない額ではない」という感覚でした。
広い一軒家で子どもたちがのびのびと過ごす姿を見ながら、「マイホーム、買ってよかったね」と感じる日々。生活は順調そのものでした。
しかし、その平穏は長くは続きませんでした。
「もう限界、別れましょう」――夢のマイホームが離婚の足枷になるとき
購入から5年。共働きゆえの家事負担の偏りや、子育ての価値観、お金の使い方など、日常の小さなすれ違いが積み重なり、やがて修復ができないほどのあつれきが相葉さん夫婦の間に生じていました。
「もう限界、別れましょう」
美咲さんの言葉に、陽一さんも否定はしませんでした。厚生労働省「人口動態統計(確定数)の概況」によれば、2024年の離婚件数は約18.6万件。離婚自体は珍しい話ではありません。
しかし、二人には大きな問題がありました。――ペアローンが残る自宅です。
自宅は夫婦共有名義、ローンはそれぞれが主債務者。どちらか一方だけが簡単に抜けられる仕組みではありません。家を売ることに決め、不動産会社に査定を依頼したものの、「現状の売却価格は5,500万円前後ですね」と現実は厳しいものでした。
一方で、住宅ローンの残債は約6,000万円。売却すれば赤字になる「オーバーローン」の状態です。さらに、仲介手数料などの諸費用を含めると、持ち出しはそれ以上になります。
「…そんなお金、すぐには用意できない」
二人に大きな壁が立ちはだかった瞬間でした。
