◆後輩の指摘で気づいた恥ずべき自身の姿
佐藤さんが自身の痛さに気づいたのは、20代の後輩とランチに行った際のことだった。混雑する店内で、いつものように「急いでいるので先にお茶を。いつもは混んでいても大丈夫だった」と店員を急かした。店を出た後、後輩から言いにくそうに指摘された。「先輩、さっきの店員さんへの言い方は少し怖かったですよ。クレーマーみたいで、一緒にいてハラハラしました」
指摘を受けた佐藤さんは、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「自分では効率を求めた感覚でしたが、周囲から見れば、自分勝手で厄介な客でした。店員さんの引きつった顔も、私への警戒心の表れだったと初めて理解しました」
自分は好意的な常連ではなく、厄介な客として扱われていた。現実に気づいた瞬間、冷や汗が止まらなかったという。
「中年になり会社である程度の立場になると、無意識に『自分の意図は理解されて当然』『融通が利くはず』という思い上がりが出てしまうのでしょう」
佐藤さんは自戒を込めて語る。それ以来、振る舞いを改め、「急いでいるなら混雑店を避ける」「マニュアル外の要求をしない」と心に決めた。
表面的な言葉の丁寧さや、怒鳴らないことだけでは、真のマナーとは呼べない。相手の事情や店舗のルールを想像できるかどうかが、大人の品格を分ける。悪気のない一言で、店員を静かに追い詰めていないだろうか。
<TEXT/maki>
【maki】
ライター・エッセイストとして活動中。趣味は人間観察と読書。取材からエッセイ、コラムまで幅広く執筆している

