わずか3年で廃止された「富裕税」
「富裕税」は、1949年のシャウプ勧告に基づき、1950年から3年間導入されました。
当時の日本は戦後復興期にあり、財産格差の是正というよりも、高すぎる所得税率(最高85%)の引き下げを補う目的で導入されました。1950年の税制改革で所得税の最高税率が55%に引き下げられ、その代替・補完税として「富裕税」が設けられました。
この税は欧州で採用されている純資産課税(Net Worth Tax)の一種で、所得税と並行して富裕層から安定的に税収を確保する狙いがありました。
OECD加盟国では、オーストリア、デンマーク、フィンランド、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイスなどが導入しており、ルクセンブルク・ノルウェー・スイスでは法人にも適用されています。
一方で、アイルランドは1975年に導入後3年で廃止、フランスも1982年に導入しましたが、1987年に廃止しました。アジアではインド、スリランカ、パキスタンなどが導入しています。
富裕税は、富裕層の純資産の年間増加分に定率で課税する仕組みです。相続税や贈与税の評価データを活用することで、既存制度に付加的に導入できる点が特徴でした。しかし、日本ではわずか3年で廃止されました。その理由は、財産増加額を把握するための調書の提出義務が大蔵省令で実質的に停止され、正確な情報収集が困難になったためです。
再導入の可能性はあるのか
「財産税」は、課税に必要な条件が極めて厳しく、実際に執行するのはほぼ不可能です。一方、「富裕税」は、マイナンバー制度など個人財産の情報管理システムが整備されれば、技術的には課税が可能です。
とはいえ、税務当局にとっては労力に比して税収が少なく、コストパフォーマンスの悪い税目となるのが現実です。
ただし、国民感情の観点からすると、富裕税の導入は歓迎される可能性があります。たとえば、将来的に消費税率を引き上げる際に、「富裕層への課税強化」というメッセージを示す目的で導入されることも考えられます。
最終的には、税収効率と公平感のバランスをどう取るか、そして政治がどのような判断を下すかにかかっています。
※ 本記事は書籍の内容を抜粋・掲載したものであり、最新の法令・制度とは異なる場合があります。実務にあたっては必ず最新の情報をご確認ください。
矢内 一好
国際課税研究所
首席研究員
