◆ファミリー層を呼ぶ高還元戦略

郊外に設定した主な理由は、「駅前立地では家賃が高い分、お客様への還元ができない」ため。ただし、この収益モデルを支える最大の難題が物流だ。原価率5割を超える高還元のビジネスでは商品の回転が凄まじく速く、500種類を超える景品が「店舗の倉庫在庫だけでは1日もたない」。店内補充と外部倉庫の連携を常時維持するオペレーションが、事業の要になるのだという。
何より、今回の合弁事業が他の参入事例と一線を画すのは、台湾最大手クレーンゲーム企業の成功ノウハウをそのまま持ち込む点にある。富谷店では台湾式と日本式の筐体を約半々ずつ設置するスタイルで展開する。
アパレル企業であった熊嗨星樂園は9年前にクレーンゲーム業界に参入し、コロナ禍前後の2022年から2023年の間に大成功を収めた。同社の楊修毓(ヤン・シウユィ)社長は、日本進出を決めた背景を次のように話す。
「日本はクレーンゲーム文化の発祥の地であり、世界で最も精巧な筐体と最高品質の景品を持っています。台湾市場が成熟期に入り海外展開の機が熟したこと、そしてアムズグループとの理念が一致したことが後押しとなりました」
◆“台湾式”が変えるクレーン体験

雪崩式は重心原理を応用した景品の積み重ね技術で、客が重要なポイントを掴んだ瞬間に標的の景品と周りの景品が連鎖して落下することで、爽快感が生まれる。
振り子アームは、掴んだ景品を景品の山に投げつけて崩すなどさまざまな応用もでき、エンタメ性が高い。台湾では開業直後に1日5000人を超える来客を記録した店舗もあるという。記者がプレイしてみたところ、最初は上手くいかなかったが一度、山が崩れるポイントを掴むと、面白いほど景品が落下してきた。アームが商品の大きさや重さごとに調整されており、「全く取れない」ということも起きない。また、景品用カートも用意されているのも射倖心を刺激する。
楊社長は、日本市場での展開にも強い手応えを示す。
「『家族全員で戦利品を持ち帰れる熱狂と笑顔』は万国共通であると思います。私たちが観察したところ、日本のお客様は最初は少し控えめかもしれませんが、私たちの“非常に獲りやすい”設定や現場での各種イベントを通じ、景品でいっぱいのカートを押して帰る満足感を体験していただけると思います」
一方で、前出の高原氏は「ここ数年はブームが続く」と見通しつつも、「パチンコが急成長したときとかなり似ている」とも分析する。“取れやすさ”をめぐる競争が過熱すれば「お互いに首を絞め合って業界全体が停滞する」懸念があるといい、「業界の皆様ともしっかり情報交換しながらやっていきたい」と話す。マルハン東日本カンパニーでは今後、ME TOKYOブランドでの都心一等地への展開に加え、郊外型の新業態も別ブランドで計画しており、都心と郊外の二軸で事業拡大を進める方針だ。
都心でZ世代女性を取り込むME TOKYO、郊外でファミリー層を狙うスターベアリー富谷。クレーンゲーム市場の拡大は、単なる“パチンコの代替”ではなく、立地、客層、景品設計によって複数の勝ち筋が生まれつつあることを示している。
パチンコ業界が長年培ってきた店舗運営力と、台湾式の体験設計が交差するなか、日本のアミューズメント市場は次の局面に入りつつある。
<取材・文/SPA!編集部>

