
「日本人は税金に無関心すぎる」――。そう警鐘を鳴らすのは、長年にわたり日米の富裕層の相続や資産防衛に携わってきた奥村眞吾税理士だ。再び誕生したトランプ政権のもと、米国では減税と富裕層優遇の流れが加速している。一方、日本では相続税や社会保険料の負担が年々重くなり、「取れるところから取る」課税強化が進む。なぜ米国の超富裕層は、相続税をほとんど払わずに済むのか。また、なぜ日本の経営者や資産家たちは、子どもをアメリカへ送り、資産を海外へ移し始めているのか。2026年4月末に『トランプ劇場と超富裕層課税 増税か、減税か——税制が映し出すアメリカの真実』を刊行した奥村税理士に、日本とアメリカの税制の決定的な違いについて話を聞いた。
日本人はなぜ「税金」に無関心なのか
――米国人は日本人と比べて、税金への意識が高いとよく言われます。
奥村眞吾氏 「日本は『税金はお金持ちの問題』という感覚が非常に強い社会です。普通のサラリーマンは年末調整で税務処理が完結してしまうため、自分が一年間でどれだけ所得税や住民税を払っているかを把握していない人がほとんどです。
住宅ローン控除の額は気にしても、全体としてどれだけ税負担をしているかを知らない。これは世界的に見るとかなり特殊です。
一方、米国では一般的な会社員でも毎年確定申告を行い、自分の税額を確認します。そのため税に対する感度がまったく違うのです。
結果として、日本では相続税が発生した瞬間に初めて「税金とはこれほど重いものなのか」と驚く人が多い。相続税を払う経験は一生に一度あるかないかですから、事前に学ぶ機会も少ないのです」
――海外では税金への向き合い方が違うということでしょうか。
「米国やヨーロッパでは、富裕層だけでなく一般層も含めて、毎年の資産形成と税負担を一体で考えています。
日本人は世界から『サイレンサー』と言われることがあります。国に対して異議を唱えない国民だという意味です。
消費税1つ取っても、税負担について国民的な議論が大きく盛り上がることは少ない。私はもっと多くの人が、自分の税負担を知り、税制について声を上げるべきだと思っています」
米国の超富裕層はなぜ相続税を払わないで済むのか
――米国の超富裕層はどのような税金対策を行っているのでしょうか。
「Amazon創業者のジェフ・ベゾス氏や、イーロン・マスク氏、GAFA創業者たちは、日本の上場企業数千社分に匹敵するほどの資産を持っています。
しかし、彼らが亡くなった際に巨額の相続税を払うかというと、実際にはそうならないケースが多い。相続税が発生しにくいよう、事前に精巧な仕組みを整えているからです。
特に日本と大きく違うのが『非公開会社株式』の評価です。日本では非上場株でも高額評価されやすいのですが、アメリカでは市場が存在しないことを理由に、非常に低く評価される場合があります。
また、超富裕層は持株会社を設立し、その持株会社ごと承継する。そして借入金を巧みに使います。彼らは現金で資産を購入するのではなく、常にレバレッジを活用する。インフレ社会では、この手法が非常に有効なのです」
――スティーブ・ジョブズ氏の相続税問題が話題にならなかったのも、そのためでしょうか。
「その通りです。スティーブ・ジョブズ氏の死去時、『巨額の相続税が発生した』という話を聞いた人はほとんどいないでしょう。それは、相続税が発生しにくい構造が事前に整えられていたからです。
場合によっては、政府側にも『資本を国外へ逃がさない』という意識があります。そのため、超富裕層に有利な制度設計が維持されている面もあると思います」
