◆眠っていたら、顔を近づけられており…
男性は再び話しかけてきた。「『君みたいな可愛い子は危ないよ。こんなに席が近かったら触ろうと思ったら触れちゃうよ。隣が俺みたいなちゃんとした男でよかったね』と言い出して、さらに痴漢にあったことがあるか聞いてくるんです。渋々『ある』と答えたら、どんな感じだったかしつこく聞かれて……」
いつまでも続く不毛なコミュニケーションに辟易した羽多野さんだったが、前日、大学の友人たちと夜中まで鍋パーティをしていたので、話が止んだところで眠気に襲われた。

◆アナウンスによって助けられる

「不意にアナウンスが流れたんです。『中央に座っている青いシャツの方、隣の席の方に接近するのはおやめください』って。通路を挟んだ場所に座っていた女性の乗客が運転手さんに不審な男がいると伝えてくれたんです」
隣の男は席に座り直すと、新聞をめいっぱい広げて読むそぶりをし始めた。
「アナウンスがよほど恥ずかしかったのか、ついには新聞を被って隠れているような感じでした。結局、目的地までそのままで、バス停に着くと、コートの襟を立て、顔を隠して逃げるように降りて行きました」


