◆塾課金は低コスパの時代が来る
「推薦入試なんて、一芸に秀でた天才か、スポーツ推薦の枠でしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、現在の総合型選抜では「大学に入ってから何がしたいか」という明確な意図と、それを裏付ける「高校時代の活動実績」を問います。
そして、これは子どもの展望を伸ばす意味でも、多分に親の見識やコネクションが影響してくる点で、圧倒的に富裕層有利であるといえるでしょう。
仮に、私が100万円を教育投資につぎこむなら、「学習塾の月謝や夏期講習代」には使いません。
その代わり、「海外の貧困地域を視察するボランティアツアー」や「最先端のIT企業が集まるシリコンバレーでの短期留学・キャンプ」、もし海外が難しくても「地方創生を目的としたサマーキャンプ」などのプログラムを調べ出し、子どもを放り込みます。
あるいは、100万円をかけてハイスペックPCを購入し、個人の開発環境を整えてやるでしょう。
それは、100万円で買える経験値として、後者の方が圧倒的に希少性と限定性が高いため。
塾に100万円を課金しても、得られるのは「同世代の数十万人と同じ、どんぐりの背比べの点数」でしかありません。
しかし、旅行や留学などの「属人性が高い特別な体験」に課金すれば、他者を圧倒する強烈な武器になりえます。
推薦・総合型選抜では面接導入が必須とされました。学生たちは、その道の専門家たる教授陣の前で自分の展望を語らなくてはいけません。
まだ人生経験も浅いうちから、大人を納得させられるだけの論理を組み立てる能力があればいいですが、それを求めるのは少々難しい。
となれば、残された武器は「現地を訪れることでわかるリアルな現場感覚と、そこから醸成される生の問題意識」。
100回教科書を読んでも貧困の実態なんてわかりません。当然、「どうにかしよう」なんて気も起こりにくい。
ですが、人生でたった1度だけでも途上国のスラムの様子を目の当たりにすれば、同情心などの感情ベースかもしれませんが、「どうにかしなければ」と問題意識が生まれてくれるかもしれない。
自分のリアルな経験や感情から湧き出る生きた言葉は、入試面接を勝ち抜く上で、非常に有用な武器となりえます。
だからこそ、私は「塾課金は低コスパの時代が来る」と予想します。
ペーパーテストの点数を10点上げるための無間地獄に数百万円を溶かすのではなく、「我が子にしか語れないオリジナルの経験」を買い与えること。
極言すれば、推薦入試という「体験の課金ゲーム」を見据えてオリジナリティあふれる青春時代を生きられるように親が誘導してやることこそが、今後の受験ゲームを勝ち抜く最強の支援となるでしょう。
◆昭和・平成の受験常識をアップデートして
「お金で特別な経験を買って、一般ではなく推薦で受かるなんて、邪道だ。なによりも金持ち優遇じゃないか」と不平の声を挙げたくなるかもしれません。全くその通りです。推薦入試の拡大は、露骨な「体験格差」を生み出し、カネと情報を持つ家庭をより有利にしています。
しかし、文句を言っても入試制度は変わらない。
我々はルールを作る側におらず、あくまでルールを守らされる側でしかありません。
名作受験マンガ『ドラゴン桜』では「バカはルールを守らされて損をするから、勉強をしてルールを作る側へまわれ」と生徒を激励しました。
まさしくその通りであり、我々にできることは「ルール変更に合わせて戦略を最適化する」程度でしかありません。
「とりあえず塾に行かせておけば安心」なんて思考停止の課金が許されたのは、平成までの話。
これから親に求められるのは、予備校のパンフレットを見比べることではなく、限られた予算を「どこに投資すれば、子どもの履歴書に最も強力な1行が刻めるか」を見極める投資家としてのシビアな目線。
子どもに勉強してほしいから教育投資をするはずが、よりによって一番勉強すべきは親の自分だった……なんてことのないように、常々注意したいものです。
<文/布施川天馬>
―[貧困東大生・布施川天馬]―
【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)

