◆出禁後に無理矢理来店すると「建造物侵入罪」が成立する可能性も
告知の方法は違えど、二つの店に共通しているのは、「出禁」の基準を店側が定めている点だ。その内容は、法的にどれだけの有効性があるのだろうか。「カスハラドットコム」を運営する弁護士の能勢章氏は、「飲食店を含む一般企業は、顧客に対して出入り禁止を通達できる自由がある」と断ったうえで、理由についてこう話す。「民法には『契約自由の原則』という基本原則があります。これは、誰と契約を結ぶのか、どのような内容の契約にするかについて、公序良俗に反しない限りは自由に決められるということ。ただし、出禁の理由は性別や社会的な身分等に基づく不合理な差別でない必要があります」
店側から「出禁」通告を受けた客が通告後に来店した場合は、処罰の対象になる可能性もあるという。
「そういった客には建造物侵入罪が成立する可能性もあります。ただし、迷惑行為や出禁にした証拠がないと警察は動いてくれないことが多いため、店側は音声や動画、書面などの記録が必要でしょう」
同じく弁護士の大和幸四郎氏は、近年増えつつあるSNSなどでの「出禁客晒し」について、出禁対象とした客以外への啓発効果も含むと指摘する。
「仮に出禁客が一方的に悪いトラブルだったとしても、SNSなどで好き放題言われると店の信用問題に繋がるため、厳然に対処するのは当然のこと。『(店側から)晒されたり、訴訟されるなら慎もう』という意識づけが客の側に広がる効果もあると思います」
たとえば東京都で’25年4月から施行されているカスタマー・ハラスメント防止条例では、顧客等から就業者への暴言や過度な要求を禁止しているものの、罰則は明記していない。過剰な対応に見えることもある「出禁」だが、現状では店側の「自衛」という意味合いも大きいことは念頭に置いておきたい。
能勢章(のせ・あきら)
能勢総合法律事務所代表。『カスハラドットコム』運営。カスタマーハラスメントを専門とし、これまでに処理したカスハラ案件は100件を超える。著書に『「度が過ぎたクレーム」から従業員を守る カスハラ対策の基本と実践』(日本実業出版社刊)がある
大和幸四郎(やまと・こうしろう)
1996年旧司法試験合格、佐賀県弁護士会所属。佐賀大学客員教授。佐賀いのち電話評議員。得意分野は捜査弁護、遺産分割等の相続問題、借金問題、消滅時効。退職代行事業「もうアカン」代表
<取材・文・撮影/松嶋三郎>
【松嶋三郎】
浅く広くがモットーのフリーライター。紙・web問わず、ジャンルも問わず、記事のためならインタビュー・潜入・執筆・写真撮影・撮影モデル役など、できることは何でもやるタイプ。X(旧Twitter):@matsushima36

