「遺族年金」は内縁関係でも対象の可能性…「相続」との決定的な違い
真美さんと弘さんのように、内縁関係にある夫婦の一方または双方に法律上の婚姻関係にある配偶者がいる状態を「重婚的内縁」といいます。
重婚的内縁の配偶者が死亡した場合、遺族厚生年金は戸籍上の配偶者が優先されるのが原則です。しかし、戸籍上の婚姻関係が「実体を全く失っている」と認定された場合には、内縁の妻が受給できる場合があります。
具体的には、以下のすべてを満たしている必要があります。
・別居中であること
・生活費などの経済的援助がないこと
・反復する音信・訪問がないこと
この3つがそろい、法律婚が形骸化していると判断された場合、重婚的内縁の配偶者が遺族年金を受給できます。弘さんと敦子さんのケースでは、15年間の別居・送金なし・音信不通という事実が決め手になりました。
「籍さえ入っていれば遺族年金を受け取れる」という敦子さんの思い込みは、裏切られる結果となったのです。ただし、遺族年金の認定は個別の事情を総合的に勘案して行われます。受給できる見込みがあるかどうかは事前に専門家(社会保険労務士など)へ相談したほうがよいでしょう。
一方、相続については法律婚が守られます。内縁の妻には相続の権利がなく、遺言がなければ遺産は法定相続人のものになります。弘さんの預貯金を相続できるのは、敦子さんと2人の子どもたちです。
敦子さんが離婚に応じてこなかったのは、戸籍上の妻という立場を手放すことへの現実的な不安があったからであり、それは責められることではありません。ただし、重婚的内縁の状態を続けるのであれば、法律上の妻と内縁の妻の双方の老後生活が立ち行くように考えておく必要がありました。
【FPからのアドバイス】夫婦関係が複雑なときこそ、生前の対話と備えを
今回のケースを通じて、似たような状況にある方へ、FPとしていくつかお伝えしたいことがあります。
1.別居が長期化している場合、遺族年金の受給は「自動的」ではない
戸籍上の妻であっても、長期別居・音信不通の状態では、遺族年金が内縁の妻に認定されるリスクがあります。「籍が入っているから大丈夫」と思い込まず、夫婦関係の実態が遺族年金の認定に影響することを知っておきましょう。
2.夫婦関係が破綻しているなら、離婚と財産分与を正式に
別居状態が続いている場合、離婚と財産分与を正式に行うことで、受け取るべき財産を確実に確保できます。曖昧な状態を続けることは、どちらにとってもリスクになります。弘さんが生前に敦子さんと正式に離婚し、財産分与を済ませていれば、双方にとってより明確な道筋が生まれていたはずです。
3.内縁関係にあるパートナーへの備えは遺言書で
離婚が難しい場合、弘さんが真美さんの老後を守るためには公正証書遺言による遺贈が最も確実な方法でした。たとえば、「預貯金を真美に遺贈する」と明記しておけば、真美さんはまとまった老後資金を確保できました。その場合、法定相続人の遺留分に配慮した内容にする必要があります。また、敦子さんを受取人に指定した生命保険に加入し、まとまった資金を残すこともトラブルを避けるために有効な対策といえます。
