◆突然始まった“採点”に戸惑い

「座席が埋まっていたので、ドア付近に立っていました」
発車して間もなく、近くから大きな声が聞こえたという。
「いきなり『10点かな!』と聞こえて、思わず顔を上げました」
向かい側にいた男性が、じっと田中さんを見ていたのだ。「様子がおかしい」と思って視線を外したのだが、男性の声は続いていた。隣にいる女性に話しかけるような口調だったが、その内容は田中さんの服装についてだった。
「その組み合わせは微妙」「自分ならそれは着ない」といったことを、ずっと言っていたそうだ。
初めは状況を理解できなかった田中さんだったが、徐々に自分が話題にされていると気づいたという。
◆車内で続いた“他人のファッションチェック”
「完全に見られているという感覚でしたし、評価されているとわかって不快になりました」男性は、さらに細かく言及していった。
「レースのデザインが古い」
「スカートはもっと短いほうがいい」
まるで“ファッションチェック”をするように解説していたのだとか。男性の隣にいた女性は、明らかに困惑した様子だった。
「女性はずっと敬語で相づちを打っていましたが、興味があるようには見えませんでした」
田中さんは、男性の様子を冷静に観察。派手な柄のシャツにサングラスをかけていて、「正直、言われる筋合いはない」と思ったという。腹が立った田中さんは、あえて無言で男性を見続けた。
すると、男性の様子に変化が現れたのだ。
「落ち着きがなくなって、貧乏ゆすりのような動きをしていました」
しばらくして、小さな声が聞こえたそうだ。
「なんで、降りないんだよ……」
男性は話すのをやめ、数駅後に電車を降りた。
「ただ電車に乗っていただけなのに、“ファッションチェック”に巻き込まれるとは思ってもいませんでした」
電車では個人のマナーが大いに問われる。だが、不快に感じても声をあげにくい空気があるのは事実だ。自分の何気ない行動が周囲の迷惑になっていないか、あらためて意識する必要があるだろう。
<取材・文/chimi86>
【chimi86】
2016年よりライター活動を開始。出版社にて書籍コーディネーターなども経験。趣味は読書、ミュージカル、舞台鑑賞、スポーツ観戦、カフェ。

