◆■「複雑な仕事は人間にしかできない」という安心感の賞味期限
ここで改めて考えてみてください。あなたが職場で積み上げてきた経験の中で、いちばん価値があるものは何でしょうか。特定のプロジェクトの知識、関係者の動かし方、判断の順番——誰かに教えようとすると意外と言葉にならない、でも自分の中では当たり前になっているもの。そういうものが、おそらくどんな会社にも存在しています。FDEが集めているのは、まさにそういう「仕事の暗黙知」です。言葉にされていないから守られていた。でもFDEが内側に入り込むことで、その複雑さが初めて整理され、言葉になる。言葉になった瞬間、それはAIが学べる形になります。
つまりFDEとは、あなたの仕事のやり方をAIの教科書にする役割を担っているとも言えます。そしてその教科書をもとに育ったAIエージェントが、次にあなたの仕事そのものを担い始める。
今回のOpenAIとAnthropicの動きは、「AIが単純作業を代替する時代」の話ではなく、承認フローや調整業務、審査判断といったホワイトカラーの仕事を、本気で、組織ぐるみで奪いにくる時代の幕開けを告げているのかもしれません。
あなたが10年かけて覚えたその仕事の勘所が、ある日から会社の資産ではなく、AIの学習データになっていたとしたら。そのときあなたは笑うことができるのか。これからの時代が証明していくことになるでしょう。<文/福原たまねぎ>
【福原たまねぎ】
シアトル在住。外資系IT米国本社のシニアPM。ワシントン大学MBAメンター(キャリア・アドバイザー)。大学卒業後にベンチャー企業を経て2016年に外資系IT企業の日本支社に入社。2022年にアメリカ本社に転籍し現職。noteでは仕事術やキャリア論など記事を多数発表。発著書『世界の一流が休むためにやっていること』(朝日新聞出版)が発売中。X:@fukutamanegi

