◆江夏豊を変えた野村克也の“革命”
当時パ・リーグは前期後期制(73年から82年)だった。なんで前期、後期の2シーズン制に分かれたかというと、この時期130試合戦えば2位と20ゲーム差離してぶっちぎりの優勝をしてしまうほどの阪急黄金時代。これではお客さんが面白くないから、半分に割って戦うという形式にしたのが前期後期制。この形式になった今、ピッチャーも初回から最後まで投げ切るのじゃなしに、先発と後半の七回八回九回専門に投げるピッチャーに分業化されていく。そういう時代が必ず来る。だからそれに備えてやってみんか、とおっさんが説いていたときに一拍置いてボソって言う。「なあ、革命起こしてみんか」
「革命って何ですか?」
革命って単語自体に反応した。
「江夏、お前に二回三回を投げろと言わんから、一回のみを投げるピッチャーになってくれ。新しいピッチャーの分野として革命を起こしてみんか」
何を言ってるんや。そのときは革命ってなんのこっちゃとピンとこなかった。ただ、革命という単語自体には惹かれた。おっさんがいうリリーフの時代を作りたい意味も理解できた。どんな分野でもパイオニアは偉大であり賞賛される。その分、産みの苦しみも付随してくるのは百も承知だ。肩もギリギリの状態だし、心臓のこともある。長いイニングはもう難しいと自分でもわかっている。
オレンジ色の朝日の光がカーテンの隙間からうっすらと差し込み、夜が明ける合図だ。そろそろお開きだ。世間さまの一日が始まろうとする前に俺らはようやく日を跨いで一日が終わり、寝床に就く時間となる。おっさんが満を持した感じで呟く。
「そのコンディション作りに関してはすべてお前ひとりで考えてやってみい」
この言葉を聞いて、自分の中で何か踏ん切りがついた。
「わかりました。やりましょう」
この日を境に俺は生まれ変わる決断をした。
【松永多佳倫】
1968年生まれ。岐阜県出身。琉球大学卒。出版社勤務を経て沖縄移住後、ノンフィクション作家に。プロ野球界の重鎮のインタビューをはじめ、スポーツ取材に定評がある。著書に『怪物 江川卓伝』(集英社)、『92歳、広岡達朗の正体』、『確執と信念 スジを通した男たち』(ともに扶桑社)、『第二の人生で勝ち組になる 前職:プロ野球選手』(KADOKAWA)、『まかちょーけ 興南 甲子園優勝春夏連覇のその後』、『偏差値70の甲子園 ―僕たちは文武両道で東大を目指す―』、映画化にもなった『沖縄を変えた男 栽弘義 ―高校野球に捧げた生涯』、『偏差値70からの甲子園 ―僕たちは野球も学業も頂点を目指す―』、(ともに集英社文庫)、『善と悪 江夏豊ラストメッセージ』、『最後の黄金世代 遠藤保仁』、『史上最速の甲子園 創志学園野球部の奇跡』『沖縄のおさんぽ』(ともにKADOKAWA)、『マウンドに散った天才投手』(講談社+α文庫)、『永遠の一球 ―甲子園優勝投手のその後―』(河出書房新社)などがある。5月15日に江夏豊氏との共著『江夏の遺言』を刊行した。

