京都・壬生(みぶ)の静かな住宅街に、週2日間だけ、焼き菓子ラヴァーの熱気に包まれる場所があります。お店の名前は「enfourner(アンフルネ)」。
オープン1時間前からマイタッパーを手にした“オタク”な常連さんたちが並び、開店と同時に約25種類の焼き菓子が怒涛の勢いで売れていく、今大注目の焼き菓子店です。
有名ホテルやレストランでのキャリアを持つ店主が、原価計算を無視して「自分の食べたい欲望」のままに具材を詰め込むおやつは、一度食べたら毎週買いだめしたくなるほどの圧倒的な美味しさ!
理屈抜きで心が躍る、壬生の小さな名店の魅力に迫ります。

週末だけ開くお菓子屋さん。開店1時間前から“オタク”も並ぶ!?その理由とは

京都・壬生の静かな路地裏に、週に2日間だけ、香ばしい甘い香りに包まれる小さなお店があります。そこが今回訪れた焼き菓子店「enfourner(アンフルネ)」。

ドアを開けると目に飛び込んでくるのは、カウンターの上にずらりと並んだ、黄金色に輝くたくさんの焼き菓子たち。フィナンシェやスコーン、パウンドケーキなど、その種類は常時約25種類にも及びます。

店内には10席未満の小さなイートインスペースも併設されており、焼き立ての香りに包まれながらその場で味わうこともできる、まるでお菓子のパラダイスのような空間です。
そんな週に2日だけ現れる特別な場所に、取材を訪れた金曜日の午前10時半、すでに熱気を帯びた列ができ始めていました。

まだオープンまで1時間もあるというのに、日差しの中で並ぶ常連さんたちの表情はウキウキと輝いています。その手元に大切そうに握られていたのは、お店の2周年記念で作られた特製ロゴ入りのタッパー。
「私たち、enfournerのオタクなんです〜!」
そう言って笑い合う彼女たちの表情から「お気に入りのマイタッパーを持って、大好きな宝物を詰め込みにいく楽しさ」を教えてもらいました。オープン準備を進める間にも、「いつもの常連さん」で列はあれよあれよと伸びていき――。

11時半、オープンの時間を迎えると、待ってましたと言わんばかりにお客さんたちが店内に吸い込まれ、あっという間に賑やかな活気に包まれます。ずらりと並ぶ約25種類のお菓子を前に、少女のように目を輝かせ、「どれにしよう」と幸せな悩みに没頭していました。
驕りを捨て、一人の「焼き人」として立つまで

そんな「enfourner(アンフルネ)」の店主として切り盛りするのは、長内美希(おさないみき)さん。パティシエとしてのキャリアは、有名ホテルのデセール部門やレストラン、製菓専門学校での助手…。誰もが羨むような華やかなものでした。当時の自分を振り返り、彼女は「当時は焼き菓子に全く興味がなかったんです」と意外な告白をします。

「ホテルの看板を背負って、決められた配合で焼けば、美味しいのは当たり前。それを自分の実力だと勘違いしていたんです。でも、いざ一人で焼いてみた時、時間が経つと味が落ちてしまう事実に直面して……。プロとしてやってきた自分の『変な自信』が、一気に崩れ落ちました」
その苦い経験が、彼女の職人魂に火をつけました。なぜ美味しくなくなるのか、どうすれば時間が経っても食感を保てるのか。既存のレシピを捨て、粉やバターの性質をゼロから叩き込み、猛烈な研究に没頭する日々。その執念ともいえる探求心が、現在の「enfourner(アンフルネ)」の味の土台となったそう。

独立の決意を固めたのは、コロナ禍の真っ只中。出産や育児、そして身近な人の大病が重なり、「明日、やりたいことができなくなるかもしれない」という人生の有限さを突きつけられた時期だったそう。
「後悔して死ぬのだけは嫌だと思ったんです。やるなら今しかない、と」
自分の人生をかけてお店を持つことを決めたそうです。