原価計算を超えた「欲望」と「日常」のバランス
「enfourner」のカウンターを彩る約25種類のお菓子たち。そこに並ぶのは、良い意味で「プロの計算」を裏切るような、溢れんばかりのボリュームと満足感に満ちた主役たちです。

その最大の魅力は、実際に口にした瞬間に誰もがハッとする、唯一無二の「食感」にあります。 例えば、看板メニューであるフィナンシェやパウンドケーキは、ふわふわと軽すぎることもなく、かといってドッシリと固すぎることもない、まさに絶妙な塩梅。

シロップなどで後から潤いを与えるのではなく、バターとアーモンドプードルを贅沢に使うことで、焼き上がりの瞬間からしっとりとリッチな食感が生地そのものに宿っています。
また、スコーンを一口かじれば、外側は心地よく「カリッ」と香ばしいのに、中は驚くほど粉っぽさがなく、豊かな風味が優しく広がっていきます。この「毎日でも、毎週でも買いだめして家にストックしておきたい!」と思わせる圧倒的なクオリティこそが、あの1時間前から並ぶ常連さんたちを虜にする正体なのです。

この驚くほどの満足感の背景にあるのは、「おやつは贅沢品じゃなく補食であり、エナジードリンクみたいなもの」という長内さん独自の哲学。「お菓子をかしこまって食べる時間なんて、忙しい日常の中にはそうそうありません。台所で家事の合間に手づかみでガブっと食べて、一瞬で元気が湧いてくる。そんな存在でありたいんです」

だからこそ、物価高騰が続く今でも「バターを植物性油脂に置き換えるような妥協はしない」ときっぱり。それどころか、マカダミアナッツやチョコレートといった具材にいたっては、「自分が食べたいと思う量を、計量器を通さず欲望のままに詰め込んでいる」というから驚きです。
さらに、店内の小さなイートインスペースだけでしか出会えない、ダイナミックな限定デザートもまた格別。

しっかり固めに焼き上げられたクラシックなプリンに、贅沢にアイスクリームと生クリームを積むダイナミックな一皿。上に乗せる手作りのアイスクリームは常時10種類ほどラインナップ。中から好きなフレーバーを選ぶことができます。

今回いただいたのは「クッキー&クリーム」。アイスの中には、お店で焼いた自慢のココアサブレの端材や割れたものが、これでもかと「ザックザク」に混ぜ込まれています。ひと口食べれば、なめらかなアイスの冷たさと、容赦ないサブレの香ばしい食感が押し寄せ、悶絶級の美味しさ……!ここにも長内さんの「限界まで具材を詰め込む欲望」が120%活きています。

ちなみに、このプリン自体は型ごとであればテイクアウトも可能だそう。お店には「型はいつか返却してください」というクスッと笑える案内が。そんな緩やかな信頼関係も、長内さんが築いてきたものです。

原価を計算したら大変なことになる。それでも、お客様が食べた時に『うわ、ラッキー!』と喜んでくれる顔が見たい。小型オーブン一台で、営業日以外の4日間をすべて仕込みに費やし、分刻みのスケジュールで焼き上げられるたくさんのお菓子たち。

シンプルな素材に嘘をつかず、「美味しい」と思える力を信じ切ったお菓子だからこそ、私たちの日常にこれ以上ない元気をチャージしてくれるのかもしれません。
誰かの一日を最高にするために
長内さんの視線は、常に「今、この街に何が必要か」に向けられています。次なる構想として彼女が掲げるのは、意外にも「早朝営業」のスタイルです。
「自分も子育てをしているから痛感しているのですが、誰かと少しおしゃべりをして、甘いものを食べて、エネルギーを充電する。そんな時間は朝しかないんです。誰かと気軽に話せるお店が朝6時から開いていたらいいな、とその日一日がきっと最高のものになると思うんです」

それは、ご自身が育児や仕事と向き合ってきたからこそ辿り着いた、優しくて力強い答え。店を大きくすることよりも、自分自身の成長と共にお店のあり方を変え、誰かの「元気の源」であり続けたい。そんな「生きた店」としての挑戦は、これからも止まることはありません。

お菓子が持つパワーを信じ、今日も長内さんは早朝からオーブンに向かいます。お菓子という、生きていく上で「絶対」ではないかもしれないけれど、心には「絶対」に必要な豊かさを届けるために。
About Shop
enfourner(アンフルネ)
京都府京都市中京区壬生下溝町60-3 1F
営業時間:11:30~16:00
営業日:週2日(インスタグラムにて随時お知らせ)
Instagram:@enfourner___

あかざしょうこ
ウフ。編集スタッフ
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関西方面のスイーツ担当。1984年生まれ、大阪育ちのコピーライター。二児の母。焼き菓子全般が好き。特に粉糖を使ったお菓子が好きです。