◆26歳で総支配人になり、意志疎通に苦労「自分でバイアスをかけていた」

「フラットな組織文化」を人事制度の基盤とする同社では、プレゼン大会で戦略発表を行い、社内投票を経て、年次を問わず総支配人に着任できる「立候補制度」という仕組みを設けている。入社3年目までのスタッフが総支配人やユニットディレクター(機能別の部門責任者)に立候補するケースは、この5年で8倍に増えており、立候補をサポートするプログラムへの応募も毎回定員に達している状態だ。遠藤さんは’20年、前総支配人の異動を機に「界津軽」の総支配人に立候補した。
「前総支配人は直属の上司だったんですが、異動時の挨拶で『投資計画が実現できたのは自分ではなく、みんなの成果です』と言い残していたのがすごく格好良くて。自分もスタッフへの『恩返し』がしたいと思いました」

「施設に60人近くいたスタッフ全員の要望を汲み取ろうとしましたが、今度は施設として目指す地点を見失いかけてしまい……。今思えば『経験の長いスタッフとは対等な議論が難しいのでは』と、自分の中で勝手にバイアスをかけていた部分もありました」

「今はサービスをチームで作りこんでいくうえで、意見の対立も新しいアイデアが発想するきっかけになると思い、以前よりも率直に自身の考えを伝えられるようになりました」
過去にも、「BEB5土浦」では、水上自転車に乗って花見を楽しむ既存プランにおいて、入社4~5年の若手スタッフが同世代に向けたSNS発信や限定宿泊プランを考案。Instagramのリール動画が120万回再生を記録し、1日5室限定のプランが約1週間でほぼ完売するなど、宿泊予約(売上)に直結する成功を収めている。
誰でも管理職に立候補できる制度を備えた会社は国内では決して多くはないが、「社内で年代・年次を問わず価値観を尊重し合うことを通じて、思わぬ化学反応が起きる面白さがある」と遠藤さんは話す。
若手社員を役職に積極登用する動きは楽天やメルカリなど新興のIT企業に始まり、近年ではソニーが年功序列を排除し、個人の役割や実績に応じて基本給を決める「ジョブグレード制」を導入するなど、その波は近年、伝統的な企業にも広がりつつある。人材研究所の安藤健氏は、企業側の狙いをこう指摘する。
「いまの若手社員は、出世の順番を待つのではなく、今この瞬間の成果を『時価』としてリアルタイムに評価してほしいという志向が強い。さらに昨今はビジネスのスピードも速まっている。AIなどのITリテラシーに長けた若手の役職抜擢は人材流出の防止につながり、経営的にもメリットがあるとの見方が強まっています」
未だ年功序列の価値観が根強い日本社会で、「若手社長」はときに自社PRのための「お飾り」に見られやすいことも否めないが、安藤氏はいう。
「会社で何か責任問題が発生した場合、株主や顧客への説明を求められる社長は『お飾り』でおけるほど気軽な役職ではありません。選ばれる時点で一定の実力は担保されていると言っていいでしょう」
社員も企業も、成長には時間がつきもの。要職に異例抜擢された若手社員がどんな結果を出していくのか、長期的な視点で見守ることが必要なのだろう。
安藤健(あんどう・けん)
株式会社人材研究所ディレクター(人事コンサルタント)。青山学院大学卒業。採用・育成・評価/報酬制度構築など、人と組織に関わる経営課題を一貫して支援している。これまで数多くの組織・人事コンサルティングプロジェクトに従事し、大手企業での新卒・中途採用の外部面接業務を担当
<取材・文・撮影/松岡瑛理(本誌)>
【松岡瑛理】
一橋大学大学院社会学研究科修了後、『サンデー毎日』『週刊朝日』などの記者を経て、24年6月より『SPA!』編集部で編集・ライター。 Xアカウント: @osomatu_san

