◆虫歯の治療費が払えず投資生活はあえなく終了
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「治療費をケチって放置したところ、インプラントで10万円以上かかると告げられたんです。治療のためにしぶしぶ証券口座の一部を取り崩したのですが……。そしたら今度は、お金を使うことに歯止めがかからなくなったんです」
自由にカネを使えることに味をしめた森田さんは、結局、ボーナス積み増し分を含む2年間でつくった金融資産約400万円を解約。抑圧された欲求の反動で、使い道は投資から浪費へ移っていった。
「先週も競馬に10万円突っ込んで負けましたが、使えるカネを考えればこの2年間と変わらない。まだわずかながら解約した分の手残りもあるし全然大丈夫ですよ」
苦しみながら投資を続けた時間はなんだったのか……。森田さんのように、将来を不安視するあまり、過剰な節約と投資行動に走る若者は増えている。その背景には、若者の将来不安を煽る社会的な構造がある。元ゴールドマン・サックスの金融トレーダーで、著書に『お金の不安という幻想』がある田内学氏は、現代社会のムードを次のように読み解く。
「’19年頃に話題となった老後2000万円問題を皮切りに、世の中でお金への不安が増しました。年を経るごとに必要とされる金額は大きくなり、今や4000万円ともいわれています。これは『終わりのないチキンレース』のようなもので、みんなどこまで頑張ればいいかわからない状態に陥っているのです」
なぜ目標額は膨らみ続けるのか。田内氏が指摘するのは、日本社会の構造的な問題だ。
「本当の問題は、人口構造にあります。AIで対応できる分野もあるが、少子高齢化で働き手が不足していて、モノやサービスの供給が足りなくなりつつある。いくらお金を貯めても、買えるモノが増えなければ、結局はインフレで必要な金額が上がるだけ。『◯◯万円あれば安心』という絶対額に意味はないんです。今の日本の“勝利条件”は『人より多く貯めること』に変わっている。必要な金額は、近づいたと思ったら遠ざかる“蜃気楼”のようなものなのです」
◆社会に出る前に老後を不安視する学生たち
不安を抱えた人間の心理は冷静な判断を狂わせる。ましてや生活に直結するカネに関することであればなおさらだ。「不安に駆られると、人はやれることがあるほうが安心する。だから『NISAをやりましょう』という号令が示されれば、それに飛びついてしまうわけです。私は大学で講義をする機会があるのですが、これから社会に出ていく可能性に溢れた学生が、『老後の不安があるから今のうちにお金を貯めたい』と言うわけです。社会に出ることではなく、その先の老後への不安が先に来てしまっている」
さらに、NISA以外にも目を向けるべきと田内氏。
「そもそも、まとまった元手がなければ投資のリターンも知れています。政府が掲げたのは『貯蓄から投資へ』というスローガンだったはず。それがいつの間にか、『生活費を投資へ』にすり替わっています。転職や副業が当たり前の時代だからこそ、知識や経験などの『人的資本』や人間関係などの『社会関係資本』の構築に時間とお金を使ってもいい。将来の稼ぐ力そのものが、複利で育つのです」
日経平均はついに6万3000円を突破。豊かさに必要な金額が上がり続けるチキンレースを走り切るためには、まずは「今の暮らし」から大切にしなければいけない。
【社会的金融教育家 田内学氏】
元ゴールドマン・サックストレーダー。金融教育分野で講演、執筆活動を実施。『お金の不安という幻想』(朝日新聞出版)ほか著書多数
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取材・文/週刊SPA!編集部
―[働いているのに…なぜか使えるお金がない![新型貧乏]の法則]―

