
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年人々のつながりに関する基礎調査)」によると、「仕事をしていない」人の11.0%が常に孤独を感じているといい、全体平均(4.5%)の2倍以上に上ります。特に中高年の孤立は深刻化しており、彼らを支える高齢親の生活を根底から脅かすケースが後を絶ちません。71歳のジローさん(仮名)もその一人です。定年退職時に受け取った退職金は、47歳の無職の長男によって底を突こうとしています。「甘やかすからだ」と周囲は非難しますが、ジローさんには突き放せない悲痛な理由がありました。親子共倒れの危機に直面する家庭のリアルと、その連鎖を断ち切るための道筋を追います。
2,400万円あった退職金の溶解
元中堅メーカー勤務のジローさん(71歳)は、月額15万円の厚生年金を受け取りながら、穏やかな老後を送るはずでした。しかし、実家の2階からは、連日のように壁を叩く音と、荒んだ罵声が響いてきます。
「ちくしょう! またかよ! 金が足りねえ……!」
声の主は、同居する長男のヨウスケさん(仮名/47歳)。彼は、ジローさんが40年間身を粉にして働いて得た退職金のほとんどを、部屋に引きこもったままオリパガチャやギャンブルなどで溶かし続けていました。
ヨウスケさんは20代後半で勤め先を退職して以来、定職に就いていません。最初は「次の仕事を探すまでの繋ぎ」として、ジローさんの妻(18年前に他界)が月数万円の小遣いを渡していました。しかし、年齢を重ねるごとにヨウスケさんの金銭感覚は麻痺し、要求額はエスカレートしていきました。
「これが最後だから。一発逆転できる案件がある」「今月のカードの支払いを立て替えてくれないと、ブラックリストに載って自己破産するしかない」
脅しとも哀願ともとれる言葉に流され、ジローさんが差し出した額は、16年間で累計2,000万円を超えていました。65歳の定年時に2,400万円あったジローさんの退職金口座は、いまや100万円を切る寸前まで目減りしています。
親戚や近所からは「甘やかすからだ」「警察を呼んで家から叩き出せ」と何度も忠告されました。しかし、ジローさんには、息子をどうしても突き放せない理由がありました。
父が抱える「一生消えない罪悪感」
ジローさんがヨウスケさんの暴挙を受け入れ続ける背景には、現役時代に犯した「一生消えない罪悪感」がありました。
現役時代のジローさんは、典型的な「モーレツ社員」でした。平日は深夜まで残業し、週末は接待ゴルフ。家庭のことはすべて妻に任せきりで、子どもたちの成長をほとんどみていませんでした。
ヨウスケさんが新卒で入社した会社で人間関係に悩み、心身を病んで実家に帰ってきたとき、ジローさんがかけた言葉は、いまでも息子の心を縛り、ジローさん自身の胸を抉っています。
「男のくせに情けない。俺たちの若いころはもっと厳しかった。根性が足りないから会社を辞めるんだ」
逃げ場を失ったヨウスケさんは、その日を境に自室に閉じこもり、心を完全に閉ざしてしまいました。その後、息子を最後まで心配し続けていた母親の死が重なり、ヨウスケさんの現実逃避は「ギャンブル依存」という形で暴発したのです。
「あの子の人生を壊したのは、父親である私の無理解と、あの冷酷な言葉だ」
ジローさんはそう自分を責め続けています。実家で暴れるヨウスケさんの姿は、過去の自分が植え付けた傷の裏返し。だからこそ、どれだけ金を無心され、退職金を溶かされても、「これは自分が受けるべき罰なのだ」と、許す以外の選択肢を持てずにいたのです。
