迫りくる「親子共倒れ」
しかし、父親の罪悪感や情愛だけで、引き裂かれた家計を維持できるほど現代の生活は甘くありません。
内閣府の「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和7年人々のつながりに関する基礎調査)」によると、孤独感が「しばしばある・常にある」と回答した人の割合は、世帯年収が「100万円未満」の層で12.3%と最も高くなっています。「仕事をしていない」人や「未婚」の人で孤独を深める傾向が顕著であり、年齢別では30代から50代の現役世代でその割合が高く、そのうち中高年層の割合が年々増加しています。彼らを支える高齢の親の多くが、ジローさんのように年金だけを頼りに生活しています。
ジローさんの手取り年金は月15万円。ここから光熱費や固定資産税、食費を引くと、大人2人が生活するだけで精一杯です。ヨウスケさんのギャンブルによる借金補填や浪費を支える余裕は、物理的にもうどこにも残っていません。
貯蓄が底を突けば、次はジローさん自身の医療費や、将来必要になるであろう介護費用が真っ先に犠牲になります。このままでは、親の死亡後に子が困窮して社会から孤立する「孤立死のドミノ」に巻き込まれる可能性が高いです。
本当に必要な支援
ジローさんのように「過去の負い目」から子どもに金銭を貢ぎ続けてしまうケースは、「共依存」や「イネイブリング(結果的に依存を助長する行為)」として警鐘が鳴らされています。
親が身銭を切って子どもの当面の穴埋めをしているあいだは、子どもは自分の直面している破綻の事実に気づくことができません。ジローさんがヨウスケさんを許し、お金を渡し続けることは、優しさではなく、親子共倒れの危機を加速させる行為になってしまっているのです。
このような状況を打破するために、福祉現場では以下のステップが推奨されています。
・財産の法的分離:親の口座の管理権を専門家(弁護士や司法書士)に移し、子が物理的に親の金を動かせない仕組み(家族信託や成年後見制度の応用)を作る。
・専門窓口への相談:「ひきこもり地域支援センター」や精神保健福祉センターなど、親自身ではなく、まずは親が第三者の支援者と繋がる。
・「親の人生」と「子の人生」の切り離し:親が死んだ後の生活設計(生活保護の申請ルートの確認など)を、あらかじめケースワーカーと共有しておく。
ジローさんが抱く罪悪感は、我が子を愛する父親だからこその痛みです。しかし、47歳になったヨウスケさんは、もう守られるだけの「子ども」ではありません。お金を渡し、暴力を許すことは、過去の贖罪にはならないのです。本当にヨウスケさんを救い、自分自身の尊厳を守るためにジローさんがすべきことは、「これ以上は無理だ」と、家庭内の問題を社会の支援にも頼って根本から解決する勇気を持つことではないでしょうか。
